公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.07.19 (月) 印刷する

白書でも説明足りぬ地上イージス撤回 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 7月13日に公表された令和3年版防衛白書の記述で「イージス・アショアについては、2020年6月、配備に関するプロセスを停止した。同年12月、厳しさを増すわが国を取り巻く安全保障環境により柔軟かつ効果的に対応していくため、イージス・システム搭載艦2隻の整備を閣議決定した」と書かれている。

イージス・システム搭載艦2隻の整備が「柔軟かつ効果的な対応」であるかについては大いに疑問がある。

艦搭載で代替はできるのか

元々イージス・アショアは、四六時中イージス艦を洋上に配備させて海上自衛隊員の疲労と艦の負担を軽減させるために秋田と山口に各1基の配備を決定した筈である。これを昨年6月、当時の河野太郎防衛大臣が、ミサイル発射後の燃焼済みブースターの空タンクが民家に落下する可能性をゼロにできないからと言う理由でイージス・アショア全体を葬ってしまった。

その代替えとしてイージス・システム搭載艦2隻を建造することになったが、戦力は約3分の1となる。何故なら艦にはドックでの修理や整備する期間が必要であり、作戦可能となるための事前訓練と作戦海域への回航日数が必要となるからである。しかも弾道ミサイルの発射兆候があってから乗組員を集めて出港させることになるので即応できない。そのような不具合点について白書は一切記述していない。

戦力が3分の1になり、即応できなければ「柔軟かつ効果的な対応」にはならない。1つでも嘘があると白書全体の信頼性に影響する。

「リスクゼロ」などありえぬ

「交通事故で死者が出るから車を全部廃止しろ」と主張する人はいないであろう。「ゼロ・コロナ社会の実現」を標榜する人達は、リスクをゼロにしようとするあまり、大きな目標を忘れているような気がする。コロナとは共存しつつ国民の経済活動をも活性化していくことがあるべき姿だ。

ブースター燃焼後の2メートル未満の空タンクが民家を直撃する可能性は限りなくゼロに近いのに対し、敵の核弾頭搭載ミサイルが日本本土を襲えば、数十万、数百万の命が失われる。

国家、国民の安全保障という大きな目的のためには多少のリスクは許容するべきであり、政治家はその点を国民に説明してリードしていく責務があると思う。