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2021.11.08 (月) 印刷する

自民は公明頼みの選挙から目覚めよ 有元隆志(産経新聞月刊正論発行人兼国基研企画委員)

自民党の現職幹事長だった甘利明氏が10月31日投開票の衆院選小選挙区神奈川13区(大和市・海老名市・綾瀬市・座間市の一部)で敗れた衝撃は大きい。甘利氏は比例代表で復活当選し、自民党も絶対安定多数(261)を上回ったが、油断は禁物である。それどころか、与党・公明党の支援なしに勝ち抜ける地力をつけないと、次回以降の選挙で勝ち続けるのは危うくなるだろう。

現職幹事長敗退の衝撃と背景

甘利氏が小選挙区で敗れた原因としては、自身の金銭授受問題への批判がメディアで大きく取り上げられたことが挙げられる。甘利氏を対象とした「落選運動」も展開され、本人も31日夜のテレビ東京の選挙特番で「ここまで苦戦するとは思っていませんでした」と語った。甘利氏はこのほか、野党の候補者一本化や新型コロナウイルスの感染拡大が影響したと指摘した。

だが、甘利氏自身は言及しなかったものの、自民党の選対関係者は「公明党とその支持母体である創価学会からの支援が十分に得られなかったことも敗北の大きな要因だ」と語る。

公明党は10月14日の中央幹事会で衆院選の第1次推薦を決定したが、その中に甘利氏の名前はなかった。岸田文雄首相をはじめとして自民党公認候補225人を推薦したにもかかわらずだ。自民党幹事長が第1次推薦に入らなかったのは異例だ。甘利氏は第2次推薦でも入らず、16日の第3次推薦でようやく入った。

前述の選対関係者によると、甘利氏と公明・学会との対立は、甘利氏が安倍晋三政権下で選挙対策委員長を務めていた時に深まった。甘利氏は当時、周辺に「学会は選挙協力という〝美名〟の下に、自民党支持層を侵食している」と語っていたという。

小が大を呑むことへの危惧

甘利氏の危機意識を示したのが令和元年7月の参院選だった。自民党は公明党と選挙協力の合意文書を交わしたが、その中には「与党としての支持層拡大を目的とし、結果的に与党内部での集票活動の競合につながるような行為を互いに慎む」との文言が入った。

公明党幹部も認めるように、公明・学会は自民党候補を一律に支援するわけではない。選挙区内での地方選への協力の度合いなどを勘案し、選別している。その結果、特に公明党が強い都市部を中心に、選挙に弱い自民党候補ほど公明・学会への依存度が高くなっていく。甘利氏はそのことに警鐘を鳴らしたのだった。

甘利氏の認識は正しい。自民党は公明党よりもはるかに多くの議席数を有しているにもかかわらず、選挙で頼っていると、「いつの間にか小が大を呑む形となり、公明党の意向を受け入れるようになってしまうとの危惧を甘利氏は抱いた」(同選対関係者)という。

甘利氏の推薦が第3次まで遅れた理由は明らかにされていないが、選対委員長当時の軋轢も影響しているといえるだろう。

甘利氏は、そうした認識を持っているならば、たとえ公明党の支援が十分に受けられなくても、小選挙区で勝ち抜くべきだった。甘利氏が小選挙区で敗北したことで、公明・学会の支援がないと幹事長といえども小選挙区では勝利できないとの印象を自民党内に植え付けてしまった。その意味では、甘利氏の責任は大きい。

自民党と公明党は連立を組んでいるといっても別の政党である。公明党は公明党の利益に沿って行動してきた。大阪では自民党だけでなく日本維新の会とも住み分けをしてきた。

東京都議選で公明党は4年前は長年続いた自公連携を解消し、小池百合子都知事が率いた都民ファーストの会と手を組んだ。自民党は半分以上減らす23議席という歴史的惨敗を喫した。自民党都連はこの屈辱を忘れたのか、6月の今回都議選では再び公明党と連携した。

パーマストンの名言かみしめよ

公明党への依存度を深めれば、公明党の意向に沿わない政策を進めにくくなる。岸田首相は北朝鮮による弾道ミサイル発射を受けて、国家安全保障会議(NSC)で敵基地攻撃能力の保有を含め、あらゆる選択肢を検討するよう指示した。ところが、岸田首相のこの方針に対し、公明党の山口那津男代表は選挙戦で敵基地攻撃能力の保有について「昭和31年に提起された古めかしい議論の立て方だ」と否定的な見解を示した。

公明党は昭和39年の結党以来、「全党を挙げて日中友好を推進してきた」(山口氏)。隣国と良好な関係を構築することは望ましいが、軍事力を急速に拡大しているのは中国だ。その現実に目を背けて、防衛費の増額や敵基地攻撃能力の保有に公明党が反対するというなら、連立の解消も考えるべきだろう。それくらいの覚悟を自民党は持つべきだ。

国際情勢を語る上でしばしば引用されるのが19世紀中葉に英国首相を務めたパーマストンの「わが英国にとって、永遠の友人もなければ永遠の敵もない。あるのは永遠の英国の国益のみ」という有名な言葉だ。これは日本にも当てはまる。20年以上の自公連携に慣れ切っている自民党議員にはこの言葉の重みをかみしめてほしい。