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2021.11.22 (月) 印刷する

中国海軍、数の優位だけに目奪われるな 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

米議会の諮問機関「米中経済・安全保障調査委員会」の年次報告書が17日公表され、その中で、中国による台湾侵攻能力は「初期的(initial)な能力を保有しているか、それに近づいている」と記述されている。

また本年6月、米国防大学出版部から出された「国境を越える中国軍(The PLA Beyond Borders)」の第2章では、人民解放軍が台湾侵攻に必要とする海・空からの兵員輸送力や後方支援能力は未だ不十分と分析している。

数だけを見れば、例えば中国の主要艦保有数は米国のそれを上回るようになっているが、それだけで恐怖心や絶望感を抱いてはなるまい。質についても着目する必要がある。

ノイズレベル高い中国潜水艦

潜水艦乗りである元米第7艦隊司令官が筆者に語ったことがある。「自分は第7艦隊司令官時代に、カウンターパートである中国北方艦隊司令官との防衛交流のために青島を訪れた。その時、同じ潜水艦乗りであった中国の司令官は米潜水艦能力が強力すぎて不安定要因となっていると述べた」と語った。

そして、その第7艦隊司令官本人も、中国の潜水艦能力について、(米国のレベルに追いつくには)今後、長い道のり(long way to go)が必要と表現している。同じ潜水艦1隻でも中国の潜水艦はノイズレベルが高いため、見つかり易い。潜水艦は見つかったら命が絶たれる事を意味している。

数だけに注目すると中国の潜水艦数が米国を凌駕している。しかし質にまで着目しないと本当の戦力比較は難しい。

商船と変わらぬ仕様の揚陸艦

本年4月に習近平中央軍事委員会主席は、海南島で中国初の強襲揚陸艦である075型の就役式に出席した。同艦は、台湾侵攻時の主力艦艇であるが、商船を多く建造している上海の江南造船所で建造されており、その仕様は商船である。

軍艦と商船の仕様の大きな違いは、軍艦は被害時に区画内の被害を極限化するために艦内が小さな区画に仕切られていることである。そのため、例えば米空母エンタープライズやフォレスタルはベトナム戦争で艦内爆発を起こしながらもダメージ・コントロールによって沈没せずに任務が遂行できた。従って軍艦は建造のコストや日数が商船の数倍かかる。逆にいえば商船仕様にすればそれだけ建造ペースが早く、同じ期間内に多くの艦が建造できることになる。

昨年4月に、この075型揚陸艦が上海の造船所で火災を起こした。その時の写真をみると艦首側で上がっている煙が瞬く間に艦尾に届いていることが見て取れる。即ち、被害極限化がなされる軍艦の仕様になってないのだ。

この上海の造船所では国産空母の2番艦が建造中である。本空母は、最新の米空母ジェラルド・フォードが装備し始めた電磁カタパルトが採用されていると報じられている。技術的な進歩の凄さは伺わせる。しかしながら、空母に搭載される航空機はトラブル続きで、どのような機種になるかも現時点でははっきりしていない。

我々は増強著しい中国の軍事力に注意深く目を向けつつも、その実態や質を冷静に見ていく必要がある。