中国の習近平政権は不動産大手、恒大集団の巨額債務危機を封じ込めようと躍起になっている。米ウォール街を中心とする国際金融界も、中国債務バブル崩壊不安が世界に飛び火するのを恐れ、ことを荒立てないよう対中配慮が目立つ。平成バブル崩壊後の日本に容赦しなかったのとは大違いだ。
が、これで中国経済は軟着陸かというと、そうは問屋が卸さない。不動産を軸にした固定資産投資を土台とする中国式経済モデルの行き詰まりは明白だ。
不動産市場崩壊は経済の碇喪失
不動産業界は銀行借り入ればかりではなく、高利回りを売り物にする理財商品や外債発行で巨額の資金を集め、不動産開発を行ってきた。習近平共産党総書記・国家主席はと言えば、手っ取り早い経済成長底上げ手段として不動産開発を中心とする上物(固定資産)投資に依存し、住宅ブームを演出してきた。
上記グラフは不動産を代表する住宅投資と国内総生産(GDP)の前年同期比増減率の推移である。住宅投資は年によって凸凹が激しいが、長期的な趨勢は右肩下がりであり、GDPの減速傾向に沿っている。統計学でいう相関係数(完全相関値は1)で0.8と極めて高い。住宅投資はGDPの5割以上を占める固定資産投資の芯である。新型コロナ不況の2020年の同比率は約5割、その多くが不動産開発でGDP増加額の31%を占めた。不動産市場の崩壊は中国経済のアンカー(碇)の喪失を意味する。
住宅価格上昇は、2件目、3件目というふうにマンション投資に殺到して値上がり益を享受する中間層以上の富裕層を喜ばせる。住宅値上がりと高利回り理財商品など不動産市場を舞台に党・政府要人、企業幹部、そして夥しい数の市民が踊り狂う。個人消費も活発になるので、GDPも増える。中国の高成長と貧富の格差拡大は以上のような住宅相場値上昇のビジネスモデルに起因するわけだ。ことし前半、上海などでは住宅価格が標準世帯の年収の30倍以上に達し、一般の勤労者には手が届かない。日本の平成バブル時では、東京都で年収の10倍程度だったが、上海など中国ではその比どころではない。
「共同富裕」が招いた債務危機
不動産主導型経済をあわててぶち壊しにかかったのが他ならぬ習氏である。住宅高騰が若い世代のマイホームの夢を壊すに及んでは、万人平等の毛沢東式共産主義の教義に反する。来秋の共産党大会であわよくば毛以来の党主席の座を狙う習氏は、この8月に突如「共同富裕」を唱え始めた。党の指令によって不動産開発へのカネの流れを細らせて、住宅価格を下落させる。たちまちのうちに不動産バブル崩壊不安が起き、恒大集団の債務危機を招いたのだが、危機は経済全般に及ぶ。
中国各地に林立する高層マンションに象徴される固定資産投資の結果、生産されたコンクリートの総量は15年から20年までの6年間で127億トン、20世紀を通じた米国の約3倍である。だが、コンクリート自体は新たな価値を生まず、債務の塊と化しかねない。しかも、債務膨張に経済成長が追いつかない。ことし前半の統計値を年間に置き換えたGDPを2015年に比較すると1.5倍だが、総債務は2.2倍、対外債務は1.9倍である。恒大集団の負債は総額で約4300兆円に上る中国の民間(家計・企業合計)負債総額の0.75%に過ぎないが、恒大に限らず中国の不動産大手が海外向けを含め巨額の外貨建て債務を抱えている。
脱中国に本腰入れるべきとき
ビビったのが国際金融界である。恒大の外債利払い延期は9月以来で、期限が到来するたびに遅延してきたのだが、米国の格付け機関「フィッチ」が債務不履行(デフォルト)を宣言したのは今月9日であり、しかも「部分的デフォルト」だと表現をぼかした。その間に、習政権は「中国恒大集団が広東省政府や中国人民銀行(中央銀行)など政府の全面的な監督・指導のもとで、外貨建て債務の再編を目指す」(12月5日付け日本経済新聞朝刊)などと、外国メディアに報じさせ、国際金融市場を落ち着かせてきた。
だが、だまされてはいけない。バブルの一挙崩壊は避けられたとしても、危機的状況終結の見通しは立たない。わが国の金融機関も企業も巨大化、慢性化するチャイナリスクを直視して、脱中国に本腰を入れるべきだ。