16日にフィリピン大学法学センター(University of the Philippines Law Center)で日米比による南シナ海での船対船遭遇戦(Ship-to-Ship Encounters in the South China Sea)に関するテレビ会議が行われた。
日本からは筆者が、米国からは海軍大学で国際法を教えているジェーイムズ・クラスカ教授が、フィリピンからは元海軍少将が発表を行い、フィリピン政府の軍民関係者数十名が参加して質疑応答を行った。
フィリピンでこうしたテレビ会議を設定した理由は、11月にパラワン州沖の排他的経済水域にあるセカンド・トーマス礁に着底している海軍揚陸艦に物資を運ぼうとした補給船が中国海警船に進路妨害や放水を受けたことから、軍事力以外で中国への強制力を効かす方策を日米に求めてきた事による。
証拠ビデオで国際社会に発信
筆者は、中国は面子を重んじる国であるので、中国海警船が進路妨害や放水する動画を国際社会に発信することを奨励して次のように述べた。
2010年に尖閣諸島周辺で中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりした。この時、海上保安庁は証拠ビデオを撮っていたものの、当時の民主党政権が公開を禁じ、かつ逮捕した中国船の船長を裁判にかけて罰する事なく中国に帰還させたため、船長は中国で英雄扱いされた。しかし、海上保安庁の愛国者が、政府の指示に反してビデオを公開し、彼は海上保安庁を辞職した。
フィリピンでも、親中的なロドリゴ・ドゥテルテ大統領の下で証拠ビデオの公開は無理かもしれない。しかし民主国家は選挙によって民意を反映させることができる。日本でも、中国船衝突事案の2年後に総選挙が行われ、民主党が大敗北を喫した。来年はフィリピンの大統領選挙があり、国民の意思を示すことができる。
なお、中国は貿易を強制力に使う国であることも述べた。2010年の事案後、中国は日本に対するレア・アースの輸出を止めた。フィリピンでも2012年のスカボロー礁を巡る対立時、中国はフィリピン産バナナの輸入を止めた。現在、台湾もパイナップルの対中輸出ができなくなっている。こうした事態に備えて貿易相手国の多様性を図っておくべきであると。
船対空、空対空でも注意必要
テレビ会議のテーマは船対船であったが、将来は南シナ海でも東シナ海同様、中国が防空識別圏を設定するであろうから、船対空、また空対空にも注意を払わなければならないと発表した。
その実例として、3年前に韓国の軍艦が日本海で日本のP-1哨戒機に対して射撃管制用レーダーを照射した事案を図示した。航空機に対する射撃管制用レーダーの照射は、2014年に中国の青島で行われた西太平洋海軍シンポジウムで合意された海上衝突回避規範(Code for Unplanned Encounter at Sea-CUES-)違反である。本件も防衛省のホームページにはP-1の航跡と韓国軍艦と巡視船の位置関係を図示した説明が公表されている。
また5年前に中国国防部が「日本のF-15戦闘機2機が宮古水道を飛行中の中国軍機に対してフレアー弾を発射するという危険かつプロフェッショナルでない行動を行った」としてF-15の写真を掲げた。しかし、その写真に写っているF-15は、当日飛行任務についていなかった。中国はこうした偽情報を発信して対象国を貶めようとするので、それに対する正しい情報を国際社会に発信して情報戦で負けないようにしなければならないとも述べた。聴衆者からは、実用的な多くのリコメンドに感謝の意が示された。