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2022.01.11 (火) 印刷する

韓国大統領選、急浮上した安哲秀候補とは何者か 西岡力(モラロジー道徳教育財団教授・国基研企画委員)

3月9日の韓国大統領選投票日まで2カ月を切った。12月初めまでは与党「ともに民主党」の李在明候補と第1野党「国民の力」の尹錫悦候補の一騎打ちと思われていたが、尹錫悦候補の支持率が急落し、中道野党「国民の党」の安哲秀候補が浮上して混戦模様となってきた。

韓国ギャラップが1月4日から6日にかけて実施した世論調査によると李在明氏36%、尹錫悦氏26%、安哲秀氏15%の支持率だった。昨年12月初めの同じ調査では李氏36%、尹氏35%、安氏5%だったから、李氏は変化なく、尹氏が9%落ちて、安氏が10%上昇した。つまり、尹氏から離れた支持者が安氏に移動したのだ。

医師出身のベンチャー起業家

野党周辺では尹氏と安氏の候補一本化だけが李氏に勝つ道だという議論が盛んになっている。2017年の大統領選挙では安氏が一時支持率で文在寅氏を抜いて1位になったが、その後、第1野党の洪準杓氏が急浮上して、安氏、洪氏の候補一本化が浮上したものの、両陣営が単独でも勝てると強気を崩さず、結果として42%の票を得た文氏が当選した(洪氏24%、安氏22%)。

安哲秀氏は医師出身だが、その後、コンピュータ技術開発に従事し、ベンチャー企業を興して成功し、ソウル大学教授としても活躍した。若者を中心にした高い人気を背景に政界入りし、2011年のソウル市長選挙では左派統一候補の朴元淳氏を応援して当選に貢献し、自ら出馬した2012年の大統領選挙でも当初は高い支持率を誇ったが、朴槿恵候補が優勢になると文在寅氏への候補一本化のため選挙戦の途中で辞退した。彼は過去、左派運動に参加したことはないエリート階層出身だが、心情的に左派寄りだった。

朴槿恵政権時代、安氏は一時期、文在寅氏とともに野党「新政治民主連合」を結党し、共同代表となったが、文氏をはじめとする旧盧武鉉政権時代の左派人脈とぶつかって脱党し、第3勢力として「国民の党」を結成した。2017年の大統領選挙では3位、2018年のソウル市長選でも3位で国民的人気に陰りが出ていた。

文在寅政権下で政権批判を強め、今回の大統領選挙では野党が団結して政権交代を実現させなければならないと強調してきた。その前哨戦とも言える昨年4月のソウル市長補欠選挙では第1野党の呉世勲候補との間で候補一本化に動き、世論調査で負けた安氏は立候補を取りやめ、呉候補を最後まで応援してその当選に貢献した。

安氏でも対日外交正常化は困難か

安氏は「産業化と民主化以降、成長が止まった状況では、科学技術を通じた先進化が突破口になる」として、李在明、尹錫悦の両候補は過去に対する報復にとらわれた法律家出身だから国を任せることはできないとし、科学者であり企業家出身である自分こそが21世紀に必要なリーダーだと強調している。

外交安保政策は韓米同盟強化、文在寅政権の親北朝鮮政策是正と常識的な線を維持し、日韓関係については「過去の歴史は直視しつつも、経済・科学・国防などの分野ではお互いの国益に沿うツートラック実用外交が必要だ」との考えを明らかにしている。

もし、安哲秀氏が当選した場合は、文在寅政権時代に各界各層に深く広く入り込んだ左派勢力の激しい抵抗に直面して、政権運営がかなり困難となることが予想される。国際法違反状態を解消して対日外交の正常化を断行する勇気と政治力があるとは残念ながら思えない。