公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2022.01.11 (火) 印刷する

第6波迎えたオミクロン株の正体 唐木英明(東京大学名誉教授)

南アフリカ政府は昨年11月25日にオミクロン株(以下OM)による感染を発表し、世界保健機関(WHO)は「懸念すべき変異株」に指定した。南アでの新規感染者は12月14日にピークに達し、過去最大だった週13万人を超えて16万人に達した。しかし死者は過去最大の週4000名より少ない1000名だった。流行は1月末の収束が予測されている。

OMの特徴は感染力が強くワクチン接種者も感染するが、流行はこれまでより短い約2カ月で終わること、ウイルスは主に喉と気管に感染して肺への感染は少ないため風邪の症状が中心で肺炎は少なく、重症者も死者も少ないことだ。

2月末には収束の予測も

沖縄で急増した感染者は30代以下が中心で、大部分は軽症か無症状であり、人工呼吸器が必要な重症者はいない。これは約1000万人の感染者を出すが死亡率は0.1%と低いインフルエンザに類似している。南アの研究者はOMが主流になれば新型コロナの世界的な流行が終わると示唆している。

現在、流行は欧米各国に拡大中で、米国では週300万人が感染している。ニューヨークでは12月初旬に始まった流行が年末にピークに達し、今後の急速な収束が予測される。日本は1月にOMによる第6波が始まった。南アの例から1月末に感染者はピークを迎えて過去最大だった週16万人を超える可能性があるが、死者は過去最大の週773人を大きく下回り、2月末に収束すると予測される。

政府は11月29日に予防措置として外国人の入国を禁止したが、WHOは12月1日、国籍で対応を分けることは不公平かつ懲罰的なだけでなく効果がないと批判した。感染者を入国させないことが目的であれば、国籍に関わらず検査と隔離を徹底すればいい。

ヨーロッパでは南ア政府の発表以前に感染者が広がっていたので、その時点で日本にもすでに侵入していた可能性がある。日本各地の米軍基地所属の兵士は検査なしで入国していた。岸田内閣の評価を上げた厳しい国境管理は、WHOの批判の通り、科学的合理性に欠ける人気取り政策だったといえる。

2類から5類に扱い変更を

感染が拡大して政府は、1月9日に広島、山口、沖縄3県にまん延防止等重点措置を適用した。対策の中心はこれまでと同じ飲食店の営業規制と人流の抑制だが、大きな感染源である家庭と職場の対策はない。飲食店だけをターゲットにした措置の効果が小さいことは証明されている。日本でも世界でも流行は突然始まり、終わるという周期を繰り返し、それは対策とはほとんど無関係なのだ。一例を挙げると第5波が終わったことが対策のためではないことはよく知られている。

対策の目的は医療崩壊の防止であり、そのための重症者の減少と医療体制の充実である。第6波の重症者は過去最大数を下回り、医療体制は現状でも足りると考えられる。問題は医療従事者が感染や濃厚接触者になることで稼働数が減ることだが、その対策は一つしかない。新型コロナは指定感染症から新型インフルエンザ等感染症に変更されたが、2類扱いは変わらないため、少数の指定病院しか感染者の治療ができない。沖縄では保健所の仕事が急増して濃厚接触者を把握できないところまで来ている。

新型コロナ感染者数はこの2年間で180万人以下だが、その10倍の年間1000万人のインフルエンザ感染者が出ても医療と保健所が崩壊しないのは、5類であるため感染者は多数の開業医の協力のもとに自宅療養が行われ、保健所は感染者の管理も濃厚接触者の追跡も義務付けられていないためである。新型コロナを2類扱いにすることが医療と保健所機能を崩壊させることは当初から指摘されていたが、弱毒性のOMの流行とワクチンのブースター接種と経口治療薬の普及を契機に、5類への変更による真のウイズコロナ政策に踏み切ることで対策の歪みを正すべきであろう。(数字は1月11日現在)