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2022.01.12 (水) 印刷する

行動抑制は最小限に経済への負荷減らせ 松本尚(衆議院議員、日本医科大学特任教授)

中国武漢に端を発するコロナ禍も足掛け3年となる。国内では武漢ウイルスのオミクロン変異株による第6波が急速に拡大しており、政府は再びのまん延防止等重点措置や緊急事態宣言発出のタイミングを伺う状況に曝されている。しかしながら、再三の飲食店の営業時間短縮や国民の行動制限を行えば経済活動の回復は遅れる一方である。実際、米国では2020年7-9月期以降、ユーロ圏では2021年1-3月期以降、実質GDPは回復傾向を続けているのに比して、わが国では2020年10-12月期以降は実質GDPの回復は停滞したままである。このことからもこれまでと同じ対応を取り続けるだけでは国民の理解は得られないであろう。

この第6波ではこれまでの感染対策を堅実に続けつつ、行動抑制は最小限にすることで経済活動への負の影響を小さくすることが求められる。感染を拡げる一番大きな因子は人の「移動」そのものよりも、人との密接な「接触」であると報告されている。移動制限よりも移動した先で如何に人と人の接触を低減できるかをこれからの対策の主眼にしてよい。

感染数より重症者数に焦点を

医療対応の視点からは、弱毒と推測されるオミクロン株に対しては感染者数よりも重症者数に焦点をあてることに切り替えるべきである。理論的には(実感染者数)<(重症患者のための確保病床数÷重症化率)であればよい。この数字をモニタリングしつつ、人の接触機会の程度をコントロールする政策が理想である。また、軽症者が多く爆発的な感染力を持つオミクロン株の拡大に対しては宿泊療養に限界が生じることは明らかである。保健所に頼らずに健康観察を行う自宅療養の強化に重点を置くべきである。

医療逼迫は高齢患者や基礎疾患をもつ人の感染制御が鍵となることはこれまで通りである。高齢者施設などへの集中的な3回目のワクチン接種を加速させる必要がある。その際は施設運営を継続できるよう、そこで働く職員も接種対象者に含むことが肝要である。第5波を生じさせたデルタ株では青壮年層に肺炎が多く発生することが問題であった。オミクロン株がこのような特徴を持つのか、今しばらくは注視する必要がある。

オミクロン株の致死率が季節性インフルエンザやデルタ株の致死率とどの程度異なるのかが、今後、感染症法上の類型を決めていくポイントとなるであろう。なし崩し的に季節性インフルエンザ並みの扱いに移行するのではなく、いつ、誰が、何を根拠に「出口」の見通しを語るのか、政治が責任を持って今から議論を始めるべきである。政府には俯瞰的な視野を持って将来を国民に示してもらいたい。

緊急事態条項の議論を早急に

行動制限についての法規に関しては、まん延防止等重点措置と緊急事態宣言だけでは国民に対する行動制限の「カード」の枚数が不足している。国民は現行の二つのカードに慣れてしまっている。これらを再び有効化させるには、国民に対して最後の「切り札」を切らずに済ませるための前段として、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言を位置づけるのがよい。最後の「切り札」とはもちろん憲法上の緊急事態条項の発動に基づく強制力のある行動制限である。コロナ禍を契機に緊急事態条項についての議論を早急に始めるべきである。

コロナ禍の経験からわが国がもっとも学ぶべきは危機管理のあり方とその実行であることが明確になった。危機管理の要諦はリーダーが顔を見せること、組織をシンプルにすること、情報を一元化することである(河野克俊元統合幕僚長談)。わが国の政府はこの2年間一度もこれができていなかった。このことが国民全体の意識を一つの方向に導くことができなかった原因であろう。実効性のある危機管理―平時の準備、事態対処、統治組織、外交―のためには、軍事的思考を取り入れるべきであるとともに、憲法上の緊急事態条項の発動を「スイッチ」として国全体が平時から有事に切り替わる仕組みを創らなければならない。