英国の情報局保安部(MI5)は、中国の中央統一戦線工作部の女性が、英国の議員に金銭を提供して英政治に影響力を与えるよう工作しているとの警告を出した。オーストラリアの情報機関も最近、中国の浸透工作について公表し、またクライブ・ハミルトン著の『Silent Invasion(邦題、目に見えぬ侵略-中国のオーストラリア支配計画)』は有名である。
中国の戦わずして勝つ『Political Warfare (政治戦)』を出版したケリー・ゲルシャネック氏は元米海兵隊幹部で、彼が数年滞在した台湾とタイでの体験を通じて中国の浸透工作を纏めた。日本でも、昨年中国共産党員が偽名でレンタルサーバーから認識番号を入手し、人民解放軍の指示により宇宙航空研究開発機構(JAXA)を始めとする約200の企業にサイバー攻撃を行ったと、警察庁が公表した。日本の情報機関は、こうした中国の政治工作の実態を白日の元に晒し、国際的な連携で、逆に危機感を共有している国々と統一戦線を組むべきではないか。
浸透工作の手段MICE
工作の代表的手段を表すMICEのMは金(Money)、Iはイデオロギー(Ideology)、Cはハニートラップ(性的誘惑)をも含めた妥協(Compromise)、そしてEはEgo(自己顕示欲)で、工作する側はこの4つを巧みに駆使して浸透を図る。
今日、共産主義イデオロギーに心酔する人達は少なくなっており、本家の中国ですら市場経済政策を採用している。しかし、中国の習近平指導部が唱える「全人類共通の価値」に騙される人達は少しは居るかもしれない。
そうすると現在は、中国が昔から使用してきた金とハニートラップ、自己顕示欲に訴える手段が多用される。『孫子の兵法』用間篇第十三に示されている「内間(敵の政権内部に入り込ませるスパイ)」の育成である。今回、MI5が警告した例では、中国の工作員と見られるクリスティン・リーという女性は、ロンドンで法律事務所を運営し、野党・自由民主党のデービー党首も献金対象であったと報じられている。筆者も現役の海将時代、中国に滞在した際にハニートラップの誘惑を受けたことがある。
日中友好団体のチェックも
中国は外国に滞在する華僑を組織化して、共産党中央統一戦線工作部の指令の下、諸外国における影響力の拡大を企図している。
これに対して、共通の価値観を持つ西側諸国は、情報機関による交流を通じて、中国のやり口について情報を交換し合うことにより、お互いに警戒を強め、対策に関しても相乗効果を高めるべきであろう。
今回、英国で警告されたクリスティン・リーは英中友好活動に携わっていた。日本もまずは、国内に存在する日中友好7団体と言われる友好協会、友好議員連盟、経済協会、文化交流協会、国際貿易促進協会、日中協会、友好会館、そして日本全国の大学にある孔子学院の活動実体の洗い出しから始めたらどうだろうか。