30日、北朝鮮は中距離弾道ミサイルである「火星12号」を日本海に向けて発射した。これまで北朝鮮は、大陸間弾道弾(ICBM)級の弾道ミサイルを2017年前後に発射していたが、米国のトランプ前大統領が、数個の空母打撃群を日本海に集中させるなどして「最大限の圧力」をかけたことから、2018年、シンガポールでの米朝首脳会談に応じた。しかし、大陸間弾道弾の大気圏再突入技術は、未だ完成されていない。
ウクライナ等に目向く米国の隙つく
北朝鮮としては、この技術を完成させる再テストの機会を狙っていた。現バイデン米大統領が、ウクライナ等で軍事力行使に躊躇う傾向を見透かして、再試験に踏み切ったと言うのが実情であろう。従って、中射程以上の弾道ミサイルの発射試験は、今後も続く事を覚悟しなければならない。日本政府は「北朝鮮の脅威はフェーズが変わり、新たな段階に入った」と言っているが、正確に言えば2017年の段階に「戻った」と表現するのが適当であろう。
今年1月の朝鮮労働党第8回大会では「国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画」が決定された。その内容は①超大型核弾頭の生産②1万5000km射程内の打撃命中率向上③弾頭部を意味するとみられる「極超音速滑空飛行戦闘部」の開発導入④水中および地上発射の固体燃料エンジンによるICBMの開発⑤原子力潜水艦と水中発射核戦略兵器の保有などである。
このうちの③が、年頭から6回連続している一連のミサイル発射試験に関連している。これらの発射では発射場所を変え、鉄道からの発射等、発射源を特定されずに攻撃されにくい対策を取っていることがわかる。②が、今回の試験であろう。①④⑤は今後、行われると覚悟した方がいい。
問われるバイデン大統領の覚悟
2017年11月に行われたICBMの火星15号、ロフテッド軌道試験では、大気圏に再突入する際、弾頭が三つに割れ、成功していない。この実験の直後に朝鮮中央通信は「金正恩委員長が国家核戦力完成の歴史的大業、ロケット強国偉業が実現された」と報じたが、実情は米国の軍事的圧力を恐怖に感じ、「完成した」と嘘を言って2018年からの米国との首脳会談に応じたのである。
当時、米国は核兵器の使用を含めて北朝鮮との一戦を覚悟していたことは、米紙ワシントンポストのボブ・ウッドワード氏の著書『RAGE(怒り)』に明らかである。
バイデン大統領に、そのような覚悟があるのか。なければ北朝鮮に腹の内を見透かされ、今後もこの種の試験、さらには超大型核弾頭の生産やICBMや潜水艦発射弾道ミサイルの開発が見込まれるであろう。