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2022.02.28 (月) 印刷する

対露金融制裁は中国へも重大な警告 田村秀男(国基研企画委員 産経新聞特別記者)

ロシアのウクライナ軍事攻撃の激化を受け、米国と欧州が2月26日、銀行間の国際決済ネットワークである国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシアの主要銀行排除を打ち出した。ロシアはドル、ユーロなど外貨取引が大きく制限され、多方面にわたって経済が打撃を受け、プーチン大統領の足下を揺るがす。制裁の意義はそればかりではない。ロシアと緊密な関係を築く一方で、軍事力を使って台湾併合を狙う中国の習近平国家主席・党総書記への重大な警告となる。岸田文雄政権はそれを自覚しながら米欧と固く結束すべきだ。

効果大きいSWIFTからの排除

ロシア軍による本格的な軍事侵攻が始まった2月24日の時点では、バイデン大統領が「ドルやユーロ、英ポンド、円でビジネスする能力を制限する」と表明したように、米国、欧州、日本がそれぞれのやり方でロシアに対する金融制裁措置を決めた。米国はロシアの大手銀行とのドル取引を禁止し、欧州と日本はロシアの銀行資産凍結などに動いた。このやり方だと、ロシアはユーロや円などとの決済に切り替えて、ドル制裁をかわせる可能性があった。

その点、SWIFTの決済ネットはドルを初め、世界の主要通貨すべてを網羅しており、排除対象となるロシアの主要銀行は外貨決済のほとんどが不可能になる。ロシアの中小銀行は制裁対象から外されたが、これはロシアからの天然ガス輸入に頼るドイツなど欧州各国が代金を中小銀行向けに支払うようにして、ガス供給契約を曲がりなりにも継続できるようにする妥協策である。

米欧はさらにロシア中央銀行にも制裁を科し、外貨準備を使って外国為替市場でのロシア通貨ルーブルの買い支えを困難にさせる。ルーブル暴落を引き起こし、ロシア経済を混乱させるためだ。外準の外貨資産はその通貨を発行する国の中央銀行が管理する仕組みになっている。ロシアのドル資産は米ニューヨーク連邦銀行が保管しており、凍結されるとドルを売ってルーブルを買う市場介入が困難になる。

ただ、米財務省データによると、ロシアの主要ドル資産である米国債は2013年、1400億ドル近かったが、昨年11月には24億ドルまで減っている。それでもSWIFT経由の制裁などで新規のドル流入は見込めず、ルーブル防衛が困難になるのは避けがたい。

中国にはロシア以上の脅威に

中国はどうか。中国人民銀行は独自の銀行間国際決済システム「CIPS」を2015年から稼働させており、ロシアの主要銀行も加盟している。CIPSは中国との貿易代金決済用が主で、その年間取引額はSWIFTの1日分にも及ばない模様だが、ロシア支援に使える。対露金融制裁の抜け穴に手を貸す中国の銀行にはドル取引を禁じる制裁案が米国では浮上しよう。メガバンクを中心にロシアを上回る数の銀行がCIPSに加盟している日本はその点、無関係ではないはずだ。

米国による金融制裁の「脅威」の大きさは、中国はロシア以上だろう。中国の通貨・金融制度は流入するドル資金に応じて人民元を発行する準ドル本位制なので、米国に致命的とも言える弱みを抱えているからだ。米国はトランプ政権時代に米ドルと香港ドルの交換を禁じることができるようにしたし、さらに中国の大手銀行に対しドル資金調達を制限する「香港自治法」も成立させている。新疆ウイグル自治区での人権侵害に関しても金融制裁案が米議会で検討されている。

台湾侵攻ともなれば、習政権は今回の西側世界の対露並みか、それ以上の金融制裁を食らう恐れを感じているに違いない。そのせいか、2月4日、北京冬季五輪開幕時の会談で、習氏はプーチン氏を強く支持した割に、ウクライナ侵攻には口数少なくなる一方で、西側の金融制裁を激しく非難している。

米欧主導の対露制裁には、口先だけで後を追うのに汲々としている感ありの岸田文雄政権だが、台湾有事を忘れてはいないか。米欧と名実そろって結束する姿勢を明確に打ち出しておかないと、後でツケが回ってくる。
 
 

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第86回 対ロシア経済制裁について

輸出規制や資産凍結程度では効果は乏しい。国際ドル取引をするSWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシア排除を決断すべき。同時に影響を受ける中国にも明確なメッセージを。