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国基研ろんだん

2022.02.28 (月) 印刷する

中露の偽情報戦に対抗せよ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

ロシアは「反ナチ」とか「ジェノサイドから親露派住民を守る」とか、大嘘をつきながらウクライナに3方向から侵攻した。15日にロシアは「軍は撤収し始めた」と言ったが実際には増強していた。ロシアは「侵攻の意図はない」言っていたが嘘だった。18日には、バイデン米大統領は「ロシアは侵攻を決断したと確信している。侵攻は1週間後あるいは数日後」と述べたが、その通りだった。米インテリジェンスは正しかった。前者は画像により、後者はおそらく電波情報による判断だったと筆者は思っているが、今日では、自国のインテリジェンス能力である手の内を晒すことによってでも「嘘をついても我々にはお見通しだ」と真実を明らかにする必要性に迫られているのではないか。

宣伝工作に甘い日本メディア

今回のロシアの行動を正当化するプロパガンダを公共の電波を使って日本国内に流布させているのがガルージン在日ロシア大使である。侵攻を開始した24日の夕方ですら、「ロシアはウクライナに侵攻していない」など林芳正外務大臣に嘘をつき続けていた。

また一貫してロシアの肩を持ち「悪いのはウクライナだ」と主張している国会議員と、つるんでいるインテリジェンス専門家もいる。この専門家は、2008年にロシアがグルジアに侵攻した時も「グルジアが先に仕掛けた」と書いていたので、筆者は産経新聞の書評欄で「ロシア側の周到な準備による計画的侵攻」と反論したことがある。今回も同様だ。

中国共産党の代弁者のような中国人大学教授もよくテレビに出演するが、敵性国家の宣伝工作に、公共性の高い電波を利用させる結果となっている。

また「ロシア軍によるウクライナ侵攻の可能性は失うものが大きいので考えられない」とテレビで繰り返し主張していた有名私立大学の女性教授がいたが、過去に「北朝鮮は一体何の得があって日本を弾道ミサイル攻撃するのか」と疑問を呈していた某全国紙の女性記者と同じメンタリティーである。別の全国紙で軍事を専門としている記者が湾岸戦争時に「米国の武力侵攻はない」と繰り返し主張していたが、同様に日本人の「戦争したい国はないだろう」というミラーイメージに囚われている。

リスク冒してでも敵の嘘暴け

中国共産党中央軍事委員会の機関紙「解放軍報」は2017年10月と2020年6月に掲載した論文で、偽情報をインプットすることによって敵の思考・行動をコントロールしようとする新しい作戦である「制脳作戦」について記述している。

これらは何も新しい概念ではない。約2500年も昔に著わされた『孫子の兵法』には、最初の計篇で「兵は詭道なり(全ての戦いは敵を騙すこと)」と書いている。スパイの用法を記した最後の用間篇では、既に偽情報を意味する「死間」を説いているのである。

中露だけではない。明らかに照射した射撃管制用レーダーを「照射していない」と国防省が発表し、「20万の性奴隷」という事実無根の嘘を国際社会に撒き散らす韓国も同罪である。

偽情報戦に対しては真実が何かを掴む強力なインテリジェンスの保持と、リスクを冒してでも敵の嘘を暴く覚悟、そしてタイムリーに真実を発信する政府声明が求められる。
 
 

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第85回 情報戦の観点でロシアのウクライナ侵攻を解説

ロシアの発表は全て噓だったことが判明。意図的に偽の情報を流す情報戦の一環だ。次は中国が台湾で「制脳権(情報誘導戦)」を使うだろう。