公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2022.03.22 (火) 印刷する

ウクライナ支える米インテリジェンス 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

北大西洋条約機構(NATO)の加盟国ではないウクライナに物理的な戦力は提供できないが、支援はしたい米国は、インテリジェンスの提供を始め、ウクライナはそれに基づいて善戦していると考えられる。そう判断する理由の一つは、20名しかいないロシア軍の将官中、既に5名がウクライナ軍の狙撃兵によって射殺されていることである。これは、おそらく米国が収集したロシア軍の通信傍受と暗号解読による分析情報(Signal Intelligence-SIGINT-)をウクライナに提供しているからと推測される。また偵察衛星による画像情報も米国はウクライナ側に提供しているように思われる。

最初は信用しなかったウクライナ

ロシアのウクライナ侵略意図を米情報組織は正確に把握していた。そのことは開戦後のロシア軍の行動を正確に的中させていたことからも分かる。これらの情報は、事前にウクライナ側に提供されていたようだが、肝心のウクライナ指導部は当初、信用していなかった節がある。そのことは、1月末の時点でゼレンスキー大統領が「パニックを煽らないでもらいたい」と言ったり、レズニコフ国防大臣が「ロシア軍による本格的な侵攻のリスクについては深刻視していない」と述べたりしていたことからも明らかである。このため、ウクライナ空軍は基地に戦闘機を野晒しにしてロシア軍によって破壊されるような失態を犯した。

しかし、ロシアの侵略以後は米国のインテリジェンスの正確さに驚いて頼りにし、また米国も物理的な参戦に代わって情報面での支援を強化していると考えられる。

米国のSIGINTは、第二次世界大戦中にも、ミッドウェ―海戦で旧日本海軍の意図を正確に予測していた。山本五十六連合艦隊司令長官の搭乗機をブーゲンビル島の上空で待ち伏せして撃墜している。

フォークランド紛争でも情報支援

1982年に生起したフォークランド紛争は、米国にとってNATOの同盟国である英国と、米州機構の一員であるアルゼンチンとの戦争であった。このため、物理的な戦力をどちらか一方に提供する訳にいかなかった米国は、インテリジェンスのみ英国に提供した。これによって独自の偵察衛星を保有していない英国は、アルゼンチンとの戦争に勝利を収めたのである。

ウクライナも独自の偵察衛星を保有していない。ロシア軍の戦車等の位置は米国から提供されたインテリジェンスによって掌握し、ドローン等によって攻撃しているものと思われる。いずれにせよ、ウクライナの善戦によって今回の戦争は膠着状態に陥り、消耗戦に入っており、それを打開しようとロシアは大量破壊兵器の使用を考え始めたというのが、今の状況であろう。