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2022.03.22 (火) 印刷する

「核」の問題意識欠如した自民党 有元隆志(国基研企画委員兼産経新聞月刊「正論」発行人)

自民党は核兵器についての問題意識が欠如している。16日の安全保障調査会(会長・小野寺五典元防衛相)で、「核共有(ニュークリア・シェアリング)」をはじめ核抑止に関して勉強会を開いたが、一回だけで終了し継続する考えもないという。

見て見ぬ振りできぬ時代

勉強会は高市早苗政調会長が核問題に関する党内議論を実施するよう求めたことを受けて開かれた。高市氏は18日夜、国家基本問題研究所の櫻井よしこ理事長が主宰するインターネット番組「言論テレビ」でその真意を説明している。

「今まで核というだけでタブー視されてきた。『非核三原則は国是』と唱え続けている方もいる。個人の意見だが、『持たず』『作らず』は結構だが、『持ち込ませず』が果たして緊急事態に通用するのか。当たり前のように米国が守ってくれる、守ってくれるはずだ。核を積んでようが積んでいまいが、見て見ぬふりをして知らなくてよい。そういう時代ではない」

「非核三原則は国是」と明言しているのは岸田文雄首相である。その岸田首相ですら核をめぐる議論については推奨している。

10日の参院予算委員会で、自民党の松川るい参院議員は「党や民間シンクタンクなどで核抑止強化のためにいかなる方策があるか検討されることは良いことだ」との考えを示した。岸田首相は「核共有」について「非核三原則の存在、原子力の平和利用を前提とした原子力基本法をはじめとする我が国の法体系の関係から考えても議論することは考えていない」との立場を示した。その一方で「一般論として申し上げるならば、国の安全保障のあり方について、国際状況を踏まえた国民的議論が行われることはあるべきことだと思う」と答弁した。

非核三原則見直しの声上がらず

首相や高市政調会長の“お墨付き”もあり、開かれたのが安全保障調査会だった。政策研究大学院大学の岩間陽子教授らから米国の核兵器を自国内に配備する「核共有」を行っている北大西洋条約機構(NATO)加盟国などの状況について説明を受けた。

核抑止問題を正面から掲げて議論するのは自民党でも初めてではないかというほど、注目された勉強会だったが、終了後、記者団に説明した調査会幹事長代理の宮澤博行氏によると、出席議員からは「核共有」や非核三原則の見直しを求める声は上がらなかった。さらに、政府が年内に改定する「国家安全保障戦略」に向けた党提言には、「核共有」に関する記述を盛り込まないとの見通しとなったという。

宮澤氏は東京新聞のインタビューに対し、「核共有」について「核の配備先になれば真っ先に相手国から狙われるなど、実益が全くないことがはっきりした。出席議員から導入に前向きな発言は一切なく、日本にそぐわない政策だと納得した雰囲気だった」と説明した。さらに、宮澤氏は「唯一の戦争被爆国として、世界平和に貢献する我が国の立場は絶対に崩すべきではない。『(非核三原則は)国是』とは大変適切な言葉だ」などと語った。

危機感なく議論の質も低下

核抑止とは数人の専門家から一回説明を聞いただけで納得してしまう問題なのだろうか。日本はロシア、中国、北朝鮮と核保有国に囲まれている。ロシアはウクライナに対して核による恫喝を行った。中国は核戦力を大幅に増強している。北朝鮮はミサイル実験を繰り返している。果たして有事に米国の「核の傘」は機能するのか、「核共有」も含め、日本の安全保障体制の在り方を真剣に議論すべき時にきている。にもかかわらず、宮澤氏の発言からは日本を取り巻く厳しい国際情勢に関する危機感がまったく伝わってこない。

元国家安全保障局次長の兼原信克氏は対談本『核兵器について本音で話そう』(新潮新書)の中で、「核不拡散と裏腹になっている核抑止の議論をちゃんと組み立てていかないと、誰にも日本の話を真面目に聞いて貰えない。私たちが世界の核の議論の奥の院に入り込めないのは、そこの議論をしないからなんです」と語っている。

同書の中で元軍縮会議日本政府代表部大使だった高見澤將林氏は「安全保障に関しては冷戦期よりも(国会議員の)議論の質が下がっている面もあるのではないか」と指摘した。

同調査会に出席する議員は自民党内でも安全保障問題に関心のあるはずだが、核問題に関する勉強会を1回開けば十分というのでは、国会で「安全保障上の抑止力とは一体何なんでしょうか」と岸信夫防衛相に質問してしまう野党議員と大差ない。これでは国民に安心を与えることは到底できない。自民党には核抑止問題にもっと真剣に取り組むことを求めたい。