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2022.04.04 (月) 印刷する

「歴史戦」否定の国民民主に自民は乗るのか 有元隆志(国基研企画委員兼産経新聞月刊「正論」発行人)

今夏の参院選山形選挙区で、自民党は独自候補の擁立を見送り、国民民主党の現職候補に乗ろうとしている。自民党執行部には国民民主党が今年度予算に賛成したことへの「御礼」と共に、今後の協力も取り付けたいとの狙いもあるという。自民党は過去2回の参院選で山形選挙区において野党候補に連敗し、今回も候補者選びが難航しているという事情もあるが、果たしてそれでいいのか。

安倍政権の主張を真っ向否定

今回は改選ではないが、山形選挙区選出の国民民主党所属議員が行った国会質問の内容を紹介したい。この議員は安倍晋三政権が進めた「歴史戦」を真っ向から否定しているのである。

3月29日の参院総務委員会で、国民民主党の芳賀道也氏は「佐渡島の金山」(新潟県)の国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界文化遺産登録推薦問題を報じたNHK番組が「歴史戦を肯定的に捉えている」と問題視した。

芳賀氏が取り上げた番組は1月27日放送の「ニュース シブ5時」。番組では安倍政権当時、明治日本の産業革命遺産の世界遺産登録をめぐり、日本の主張に対する国際社会の理解を広げるため、政府内に「歴史戦チーム」と呼ばれる組織が設けられたことを引き合いに、「佐渡島の金山」の登録に向けても同趣旨の「歴史戦チーム」の設置が検討されていることを紹介した。

芳賀氏は「歴史解釈を政治宣伝の場とする歴史戦はかつての大日本帝国の軍部や官僚が進めていて、最終的に国を敗北に陥れ、内外の方々に多大な被害を結果としてもたらした。思想戦や宣伝戦に近いものとして、放送法の趣旨とも相容れないと考え、歴史戦を取り上げる時には必ず批判的に取り上げるべきだ」と主張した。

あたかも韓国や中国の代弁

筆者は産経新聞で長期連載「歴史戦」を担当した。韓国や中国は日本を道義的、政治的に貶め、劣位に置くための「道具」として慰安婦問題や朝鮮人戦時労働者の問題を国際社会の場で利用していた。

日本政府は慰安婦募集の強制性を認めた平成5年の河野洋平官房長官談話に象徴されるように、韓国などの主張を受け入れてきた。だが、この談話が実は「日韓合作」であり、韓国での元慰安婦16人に対する聞き取り調査も裏付けを取らずに行われていたことが判明した。連載を始めたのは、日本と日本人の名誉のため、「事実」に即して反論すべきであるとの考えからだった。

芳賀氏の質問はあたかも韓国や中国の主張を聞いているかのようだ。芳賀氏は質問の中で「佐渡金山については、朝鮮人の強制連行の歴史があったため、韓国などから批判が出ている。(中略)「シブ5時」では、2015年の軍艦島の登録後にユネスコから『負の歴史』を示す展示、『犠牲者』を記憶するための措置、当事者間での対話継続などの勧告があったことには全く触れていない。これは放送法、NHK番組基準に違反する疑いがある」と述べ、NHKを追及した。

どこが放送法違反にあたるのか。日本政府は昨年4月、朝鮮人労働者の戦時労働は「強制労働」ではないとの閣議決定を行っている。国基研企画委員で麗澤大学客員教授の西岡力氏が1月17日付で本サイトの「今週の直言」で書いたように「日本政府、特に外務省の問題は、日本は朝鮮人に強制労働をさせていないという、歴史的事実に踏み込んだ国際広報をしてこなかった」。その反省から「歴史戦チーム」が設置されたのだった。

「非自民」鮮明にする芳賀氏

芳賀氏は「放送されたタイミングは、佐渡金山の推薦の可否を決定する岸田文雄首相への強烈なプレッシャーになったのではないか。安倍元首相や自民党の高市早苗政調会長の主張と完全に重なることも考えれば、報道の独自性に疑問がある」と言い切った。

芳賀氏は元民放アナウンサーで令和元年の参院選で、国民のほか立憲民主党、日本共産党などの推薦を得て野党統一候補として自民党候補を破って初当選した。今回も国民と立憲民主党、連合山形などと結成した「参院選連絡会議」の代表を務めている。

「非自民」を鮮明にし、歴史認識問題でもまったく異なる考えを持つ人物が中心となって擁立している候補を、それでも自民党は推すのであろうか。