自由民主制を取る高度産業国家で、周りを海洋に囲まれた島国、アメリカと同盟条約を結んでいるなど日本と様々に共通点の多いイギリスは、一方で日本と違い、独自の核抑止力を保持している。「連続航行抑止」(Continuous at Sea Deterrent, CASD)と呼ばれる。
英政府はこれを、「少なくとも1隻の核兵器装備潜水艦が、最も極端な脅威に対応するため、発見されずに常時パトロールを続ける態勢」と表現する。核ミサイルを搭載した原子力潜水艦を4隻保有し、そのうち少なくとも常時1隻は必ず海洋パトロールに出る態勢が維持されている。
抑止力に必要なコスト
英国防省は、「イギリスの核抑止―その事実」と題した電子版パンフレットにおいて「よくある誤解」に反論している(Q&A形式)。今回はまず、その第4番を取り上げる。「質問」は以下である。
核武装した潜水艦を常に出航させておくのは費用が掛かりすぎる。安全保障上必要な時にのみ出航すればよいのではないか
それに対する英国防当局の「答」は以下である。
抑止力を休眠状態で維持する、すなわち危機の時だけ核武装潜水艦を配備する形でも、連続航行抑止を維持するのと大体同じコストが掛かる。
やはり、すべての高度に複雑な装備をメンテナンスする必要があるし、熟練した乗組員を訓練し、即応状態に置かねばならない。防護態勢が遥かに不十分となり、相手の先制攻撃に対してより脆弱になる。
攻撃が差し迫ったと判断したとき、わが抑止力を休眠状態から能動状態に移行させねばならないため、好戦的な行為と見られかねない。それは、緊張のエスカレートを招き、実際の紛争に導くかもしれないなど、状況を遥かに悪化させる
4隻体制は合理的判断
出航して任務に就く1隻、メンテナンスに入る1隻、訓練を行う1隻、事故や被弾で1隻が失われた場合に備えてもう1隻と4隻体制を採るのは合理的な判断と言えよう。
第116回 核の議論は英国に学ぶべし
英国は戦略原潜の連続航行抑止。独自核は米国の核の傘があっても必要。憲法が核保有を禁じないことは国会答弁にもある。非核政策は状況に応じて変更すべき。