公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2022.04.25 (月) 印刷する

国民の命守る核シェルター設置を 奈良林直(東京工業大学特任教授)

ロシアが核兵器で恫喝する中、ウクライナ侵略と市民の虐殺が続いている。国連も北大西洋条約機構(NATO)もこの暴虐を止める術がない。せいぜいドローンや対戦車ミサイル、地対空ミサイルなどを供与するに留まっている。

そうした中で、ウクライナのマリウポリでは、アゾフスタリ製鉄所の地下に築かれたシェルターがウクライナ軍の抵抗拠点になっているが、永世中立国のスイスは、全国民を収容できる核シェルターの設置が義務付けられている。我が国もスイスを見習って核戦争の危機に対処すべきだ。プーチンの戦術核の使用命令が引き金になって核戦争が開始される確率は、まさに五分五分なのだ。

スイス、フィンランドの手本

永世中立国のスイスでは一家に1室、核シェルターを設けるよう法律で義務付けている。キッチンの分厚い床を開けると地下室に通じる階段があり、核シェルターとなっている。非常食や飲料水、チーズなどの保管のほか、ワインセラーとしても使われている。核戦争になったら、ここが一時避難場所になる。集合住宅では地下駐車場などに核シェルターの機能がある。スイスの空軍基地は、丘の中腹の目立たない場所に設置され、多くの戦闘機や兵器を収納しているという。

筆者は電力会社に払い下げられた原発事故収束用機材を収納している地下基地を視察したことがある。生い茂るツタなどをどかすと厚さ数十センチの鋼鉄製の大きな扉が現れ、その扉を開けると、さらに数メートル先にも同じような鋼鉄製の扉があった。その向こうには見渡す限りの広大な地下空間があり、多くの資機材が整然と並べられていた。

ロシアと1340キロにわたって国境を接する人口550万人のフィンランドでも、防災法で全人口の約7割を収容できる核シェルター設置が定められており、72時間分の食料や簡易ベッド、災害時用の簡易トイレ、放射線線量計などが備蓄されている。旧ソ連軍がフィンランドに侵攻した「冬戦争」とチェルノブイリ原発事故を経て、1991年にフィンランド全土での設置が進められた。

首都ヘルシンキには50カ所のシェルターがあり、1か所で6000人が収容できるという。平時は地下駐車場やスポーツ施設、冬の子供の遊び場などに利用されている。ロシアとの国境には地雷が埋められ、ロシアの侵入に備えている。

抑止力確保の議論につなげよ

ロシア国防省は4月20日、次世代ICBM「サルマト」の打ち上げに成功したと発表した。5個から10個の核弾頭を搭載し、地球の衛星軌道上を周回しながら、北極圏のみならず南極圏からも米国を攻撃できるという。このICBM1発で米国のテキサス州、フランス1国を壊滅できるとされ、ロシアは年内に実戦配備するとしている。

我が国でも、核戦争の脅威から国民の命を守るため、東京や大阪など大都市の地下街、地下駐車場、地下鉄などを核シェルターとして使えるように態勢を至急整備すべきだ。マンションなどの集合住宅でも。風呂場を核シェルターに改造することを検討すべきだ。浴槽の水は核爆発の中性子線、ガンマ線、熱爆風を弱める。筆者の開発した空気浄化システムは空気中の放射能を1億分の1にし、ウイルスや化学兵器、火山ガスにも対処できる。

このような議論は、平和ボケした我が国民に差し迫った核戦争の脅威を認識させ、憲法改正や自衛隊の重要性、核攻撃に対する抑止力確保に関する議論を活発化させる。核廃絶は、ロシアの次世代核兵器の開発などにより、ますます非現実的なものとなっている。最近は、共産党までが節操もなく、有事には自衛隊を使うと明言している。

ひとたび、ロシアや中国、北朝鮮から核攻撃を受ければ、国の存亡に関わる甚大な被害をもたらす。国民の命を守る対策は、憲法改正と共に推進すべきだ。参議院選挙の最大の論点とすべきだ。

東工大で筆者が開発した大容量空気浄化システム

大型トレーラー搭載型大容量空気浄化システム