ウクライナ侵略前におけるプーチン大統領の思惑は、短期間にゼレンスキー政権を倒し、5月9日の戦勝記念日には、ウクライナの中立化・ロシア化達成を記念した大々的な式典を挙行することだったろう。
しかしウクライナ軍は、2014年のロシアによるクリミア併合以降、米国の支援を受け、ロシアの想像を越えるスピードで進化し、戦える力を付けていた。一方のロシア軍は、クリミア併合の真の勝因から学ぶことなく、ウクライナ軍を侮った結果、1カ月で作戦が失敗し、4月以降、作戦目的を東部および南部における支配地域拡大に変更せざるを得なかった。
戦闘は長期化する様相
作戦目的の変更に伴い、今後の軍事的な攻撃目標が、都市部から領土・土地の確保に変更され、その土地を直接守るウクライナ軍が攻撃の主目標となるため、陸軍対陸軍の熾烈な戦闘となることが予想される。
米国を始め西側諸国がウクライナに供与している兵器の種類は、それまでの防御的なものから、戦車・自走砲・装甲戦闘車などの重戦力化するとともに、砲兵同士の戦闘(対砲迫戦)やロシア軍の後方地域を攻撃できるドローンなど、攻撃的な兵器に変わってきている。
ウクライナ軍は、東部地域の準備した陣地においてロシア軍の攻撃を阻止するとともに、平原地帯を進撃してくるロシア軍戦車部隊に対しては、待ち構えた戦車部隊により打撃する戦車戦の様相となるだろう。この際、米国から供与を受けたフェニックスゴースト戦術無人航空システムなどを使用し、ロシア軍後方の補給部隊など兵站部隊に対する攻撃を繰り返すとともに、特殊部隊を使ってロシア国内の鉄道輸送拠点等を爆破し、ロシア軍の補給路を断つ作戦に出るだろう。
これまでの両軍の戦いぶりを見るに、ロシア軍の戦略的・戦術的失敗や軍の練度の低さは顕著である。一方、米国のウクライナ軍に対する情報・サイバー・兵器等支援の有効性、およびウクライナ軍の士気の高さからも、西側諸国の支援が継続される限りは、ウクライナ軍が持ち堪え、戦闘は長期化するであろう。
懸念される小型核の使用
ロシアにとって東部地域の占領は、ウクライナ侵略における最低限の目標であり、プーチン大統領としては、東部2州を併合するまでは、戦闘を継続するものと推測する。仮に、ロシアの戦闘力の損耗や国内の政治・経済的な理由から、プーチン大統領が、これ以上の戦闘継続が困難と判断した場合には、最後の手段として、小型核兵器の使用により、ゼレンスキー政権の降伏、あるいは停戦協議の締結に強引に進む可能性もある。
まさにウクライナが頑張れば頑張るほど、小型核の使用に繋がる構図になっているとも言えるが、これに怯むことは、戦争に勝利した成功の証としてプーチン政権の存続に繋がり、今後さらにウクライナ全体の中立化に向けた紛争が長引くことを意味する。
一方、ゼレンスキー大統領は、東部親ロシア派地域の主権承認はあり得ないとしており、西側諸国の支援を受けながら、領土奪回に向け、戦闘を継続するであろう。仮に、ウクライナ軍が東部地域を奪回できた場合は、2014年以降続く東部地域紛争の一つの区切りとなり、クリミア半島の奪回に向け、ウクライナが反転攻勢へ出る転機になるかもしれない。
北方領土で新たな展開も
米国は4月25日、オースティン国防長官が戦争指導方針的なものとして、「ロシアの弱体化」を示唆した。これは、ロシアにウクライナとの戦争を継続させることにより、軍事力、経済力などを長期にわたって消耗させ、ロシアの政治・外交力を含む国力全体を弱らせることを意味している。
ロシアの弱体化は、ソ連がアフガン戦争に介入して国力の消耗と国内分裂を招き、結果として、アフガンから撤退して2年後に崩壊したことと重なって見える。
米国は、ロシアが再び同じような戦争を起こさない国に変えようとしている。それはウクライナにとっては苦しい戦いかもしれないが、西側諸国全体から見れば、国連が機能しない現在、戦争再発を防止する良策といえるのではないか。
それは、日本にとっても同様である。常に中国・北朝鮮・ロシアの3正面に対峙する日本として、ロシアの弱体化は対応する戦略正面を減らす意味において好都合であり、積極的に米国の戦争指導方針を支える姿勢が重要である。
その結果として、弱体化したロシアとの北方領土交渉においては、新たな展開が描ける可能性が出てくるかもしれない。