公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2022.05.10 (火) 印刷する

日米統一指揮を円滑に進めるには 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

連休中に自民党の小野寺五典安全保障調査会長と佐藤正久国防議連事務局長が米国に出張し、戦略国際研究所(CSIS)を始めとするシンクタンクで、年末までに取りまとめる予定の国家安全保障戦略等における「反撃能力」などについて説明した。報道によれば、出席者からは「日米の合同司令部がない中、どのように反撃を行うのかなど疑問点も多くある」との指摘がなされたという。

北大西洋条約機構(NATO)を始め米韓同盟でも、米国と同盟国は統一した指揮官の下に作戦を遂行することになっている。これまで、米軍は平和維持活動のような低烈度軍事行動といった例外を除いて、他国の軍幹部の指揮下に入った試しがない。日米が、共に軍事行動を行う場合、効果的な軍事作戦を遂行するためには、統一された指揮官の下に軍事作戦を行う方が準軍事的には効率的である。

米指揮官の「駒」にならぬために

これまでの日米共同訓練においては、日米双方に独立指揮権限(ナショナル・オーソリティー)を設け、日米両国それぞれの主権の下に、軍事行動は「相互調整」によって行われてきた。しかし、中国、北朝鮮、ロシアといった国々からの核弾頭搭載弾道ミサイル攻撃のような烈度の高い戦局において、このような調整が機能するかどうかは疑問が残る。第一次世界大戦でフランスの将軍フォッシュが連合軍総司令官になったのは戦争末期であったが、第二次大戦では戦争初期に連合軍総司令部ができた。そして現在では平時からNATOや米韓連合司令部が存在している。

米軍は、憲法で戦力の保有を禁じているような国の自衛隊幹部に自国の軍隊を指揮させるほどおめでたくは無い。然らば、自衛隊は米軍指揮官隷下で軍事作戦を行えば良いのかと言えば、その場合、自衛隊は米軍の「駒」として使われかねない。

この問題を解決するには「優秀な幕僚を統一司令部に送り込み、実質的に自衛隊の幹部が日米両軍の作戦をリードしていく」以外に解決策はないと考える。作戦を遂行するにつれ幕僚の優秀性が発揮されていくのである。これには事例がある。

昭和62(1987)年秋の海上自衛隊演習において、第四護衛隊群司令部は、米空母ミッドウエーに乗り込んで日米共同部隊における対潜戦を任された。当時2等海佐であった筆者も幕僚としてミッドウエーに乗り込み、刻々と変わっていく戦局において、我々がリコメンドする陣形・戦術を米空母機動部隊司令官が採用し作戦が功を奏した事があった。

平成6(1994)年の海上自衛隊演習でも、第一護衛隊司令(1等海佐)であった筆者は数名の補佐と共に米空母キティー・ホークに乗り込み、空母機動部隊司令官のデニス・ブレアー海軍少将(後の太平洋軍司令官・国家情報長官)と共同訓練を推進したこともある。

両軍リードできる人材育成を

筆者は、米海軍の士官学校で2年間、シーマンシップ・航海・操船法・戦術を教えたことから米海軍の戦い方には通じていたので「この情勢下ではこうすべき」といった方針を、米指揮官に論理的に説得できた。

将来の日米共同作戦を遂行する司令部で、語学力をも含め両軍をリードできるような人材の育成をコンスタントに行っていく必要がある。