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2022.05.16 (月) 印刷する

急ピッチのSMR開発と日本への期待 奈良林直(東京工業大学特任教授)

国際原子力機関(IAEA)の要請により小型量産型原子炉(SMR)の規格や効率的な設計・製造の技術に関するオンラインの国際会議に急遽参加した。会議は5月10日から13日にかけてウイーンのIAEA本部で開かれ、世界から約70名の専門家が参加したが、なんと筆者は初日のプレゼンに指名された。

SMRを設計・建設するうえで、安全性と信頼性の確保と大幅なコストダウンは欠かせない。そのためのCodes and Standards (規格と標準)の世界標準を如何に策定するか、それが会議の狙いだった。かつて世界一の原子力発電所の設計・建設技術を有していた日本が参加することには大きな意義がある。

今に生きる戦艦大和の技術

SMRは現在、世界で70基の開発が進められているが、原子力発電所の基幹部品である原子炉圧力容器や蒸気発生器などの重要機器製造では、日本とロシアが先行し、中国と韓国が猛追している。

原発先進国フランスの原発も原子炉圧力容器は三菱重工業が受注し、北海道・室蘭にある日本製鋼所で鍛造している。日本刀の技術が戦艦大和の主砲を作り、戦艦大和の砲塔を建造した広島県呉のピットが現在も原子炉容器の溶接と表面仕上げに使われている。

三菱重工業の神戸造船所にも高精度の大型加工設備がある。大きな容器では室温程度の変化でも熱膨張により加工寸法に狂いが生じる。巨大な原子炉圧力容器は精密機械のような高精度の機械加工が必要なのだ。

巨大な工場で空調が一定の室温を保ち、回転台(ターンテーブル)がゆっくりと回って、コンピューター制御の巨大な加工機が作動する。このような原子炉圧力容器は実は、厳格な規格や標準に基づいた技術なのだ。

2011年3月の東日本大震災以降、我が国の原子力発電所の新規建設は止まったままだが、世界的な天然ガスや石炭・石油などの化石燃料価格の高騰、ロシアのウクライナ侵略にともなう経済制裁によるエネルギー不足により、欧米は一斉に原発の新規建設、SMRの採用に向かっている。ドイツと台湾は頑なに脱原発を目指しているが、安全性を高めた原発は世界中で建設されることになろう。

免震、造船技術も世界をリード

SMRは量産化するので、地震や活断層など個々の立地要件に左右されない革新的な技術を必要とする。筆者は原子炉建屋を鉄筋コンクリートからスチールの船殻構造に切り替え、さらに免震技術の採用を提案した。

我が国の超高層ビルは免震ゴムによって支持された鋼鉄製の柱からなる構造になっている。外壁もカーテンウォールと呼ばれるあらかじめガラス窓がはめ込まれコンクリートパネルが使われている。工期も短く、地震の際の揺れも少ない。

東京工業大学の未来産業技術研究所には、これらの免震技術のコンソーシアム(共同事業体)を主宰する笠井和彦特任教授がおられ、免震ゴムやダンパー、土木建設の企業群が集まっている。筆者のプレゼン後、これらの技術協力が要請された。

さらに、高速炉に関する日本機械学会の設計規格・標準は、小型モジュール式高速炉「PRISM」や米マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が創設したテラパワー社の「ナトリウム」と名付けられた小型モジュール式高速炉にも適用可能だ。東大教授で機械学会会長の加藤千幸氏や規格策定を主導した日本原子力研究開発機構(JAEA)の浅井泰氏の協力も得られることになった。13日の最終日には、これらの我が国のキーパーソンの氏名と組織の協力を表明した。我が国の原子力界は大きな世界貢献の時を迎えている。