公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2022.05.30 (月) 印刷する

MDAでも大きな貢献果たす日本 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

バイデン米大統領の今回の訪日に際し、米国が新たに提唱したインド太平洋経済枠組み(IPEF)へのASEAN諸国参加に関しては、米国より遙かに高いASEANの信頼度を得ている日本の役割が欠かせなかった。

24日に行われた日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド」首脳会合の共同声明に記載された不審船探知などの海洋状況把握(Maritime Domain Awareness-MDA-)に関しても、これまで約20年間に渡って築き上げてきた日本のネットワークが大きく貢献できる。

日米同盟は日本が米国に一方的に守られている片務条約だと強調されがちだが、MDAの協力体制構築などは日本が米国に対して重要な貢献を果たしている好例だと言える。

ネットワーク構築を先導

元来MDAは、2001年の米同時多発テロを契機に米国で検討が開始され、米国と欧州で取り組みが先行していた。日本に対するMDAの説明は、私が知る限りにおいては2006年に米シンクタンクの海軍分析研究所(Center for Naval Analysis-CAN-)上級研究員であったマイケル・マクデビッド退役海軍少将が、都内の東京アメリカンセンターで行ったのが最初であったと認識している。当時、防衛大学校教授であった筆者は、討論者として登壇し、マクデビッド氏を紹介した。

日本も1999年に、日本に向かっていた貨物船「アランドラ・レインボー」がマラッカ海峡付近で海賊に襲われ、これが契機となり日本がイニシアチブを取ってアジア海賊対策地域協力協定(Regional Cooperation Agreement on Combating Piracy and Armed Robbery against Ships in Asia-ReCAAP-)を立ち上げた。アジア地域の16カ国が参加して設立され、2006年に発効した。

機能の中核となる情報共有センター(Information Sharing Center-ISC-)はシンガポールに設置され、以後2009年にノルウェー、2010年にオランダ、デンマークといった欧州諸国も加入、2013年にはオーストラリア、2014年に米国が加わり、現在の締約国は20カ国になっている。

隠れたターゲットは中国

MDAは、筆者が参加した2008年のカナダ太平洋軍主催による海洋安保会議、2010年のポルトガル・リスボンでのNATO海洋安保会議でも取り上げられた。また、海賊の主体がマラッカ海峡からアデン湾に移るにつれ、海上自衛隊の艦艇・航空機が常時派遣され、当該海域での海洋状況把握に貢献している。

IPEFの隠れたターゲットが中国であるのと同様、当初は海賊や不審船を対象としていたMDAは、次第にインド太平洋海域における漁民を装った中国の海上民兵や、海警船、海軍艦艇の動静把握に重点が移りつつあると認識している。