公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2022.06.27 (月) 印刷する

総花的で深み欠いた党首討論会 石川弘修(国基研企画委員)

参議院選挙公示前日の21日、日本記者クラブ主催の9党党首討論会が開かれた。ロシアのウクライナ侵攻後、初の開催であったが、討論は総花的で、日本の国土、生命を守る安全保障問題が軽視された。

討論会には、岸田文雄首相(自民党総裁)、山口那津男・公明党代表のほか、野党は、立憲民主党・泉健太代表、日本維新の会・松井一郎代表をはじめ共産党・志位和夫委員長、玉木雄一郎・国民民主党代表、山本太郎・れいわ新選組代表、福島瑞穂・社民党党首、立花孝志・NHK党党首の7党首が参加した。

安保は10分、憲法は3分だけ

第1部は党首間での討論、第2部は日本記者クラブを代表するベテラン記者4人が質問する形式をとり、それぞれ1時間余が割り当てられた。1、2部を通じて討論の中心になったのが物価高対策で、消費税減税の如何、社会保障、円高対策、金融政策などに議論が集まった。

選挙を目前に各党首が選挙民にアピールしやすいテーマを選ぶのはやむをえないかもしれない。しかし、記者が代表質問する第2部では、最近の世論調査でも関心が高まっている日本の防衛努力や憲法改正問題をもっと追及すべきではなかったか。筆者がチェックした限り、第2部約70分のうち、安全保障問題が議論されたのはわずか10分前後で、憲法問題にいたっては約3分に過ぎなかった。

内容的にも具体論に乏しかった。例えば、①中国や北朝鮮のミサイル強化の中で、抑止力としての敵基地攻撃能力②開発中の極超音速機への対抗策③ロシアがウクライナ侵攻で核の脅しをちらつかせる中で、中国に対抗すべき米国の拡大抑止の信頼度―についての議論である。

特に中距離核では日本として米国との核シェアリング(共有)をどうするか―といった点をもっと議論すべきだった。外交努力を重視すべきとの声に対しては、相応の国防力を持たずにどんな外交成果を挙げられるのか―という至極まっとうな反論は聞かれなかった。

防衛予算の増額については、財源問題が指摘されるが、2021年度の日本の一人当たり国防費(約4万円)はドイツの半分強、韓国、豪州の3分の1、米国の5分の1に過ぎない。同年度の日本の単身世帯が使う携帯電話通信料は6万3000円、パチンコ代は約16万円だ。日本の防衛努力には、厳しい国際的視線が注がれていることを忘れてはならない。

質問者の顔ぶれも変わらず

討論会場などからの質問も取り入れているが、もっと工夫がほしかった、質問の形式にも問題はなかっただろうか。代表質問した4人は、日本記者クラブの企画委員会を構成する主要メンバーの朝日、毎日、読売、日経の論説あるいは編集委員だが、顔ぶれはこのところほとんど変わらない。今回選挙で主要焦点のひとつである安全保障、とりわけ軍事問題については、精通した記者が加わっているとは思えない。

企画委員会には通信社や地方紙、テレビ局のベテラン記者も加わる。現在、定例の委員会に出席する委員数は30人前後だ。全国紙では産経もメンバーだが、どういうわけか代表質問者には選ばれていない。

党首討論会で、毎回、疑問を感じるのが、壇上での並び順はともかく、議員数にかかわらず、各党代表が発言機会で平等に扱われることだ。NHKの政党討論会と同じだ。衆議院議員数(6月13日現在)で比較すれば、262人の自民党と3人のれいわ新選組、1人の社民党が同じように扱われる。発言時間に違いはあるというものの、議員数に表れた民意の軽視ではないか。あらかじめ討論のテーマを絞るとか、テーマに応じた代表質問者を決めるなど再考すべきではないだろうか。