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2022.09.05 (月) 印刷する

戦力向上より政治的ショーのボストーク演習 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

予定より2日遅れの9月1日から7日まで極東で行われている4年に1度のロシア軍事演習ボストーク(東方の意)は、当初5カ国の参加とされていたが、開始直前になって14カ国に膨れ上がった。他方で、参加兵力は4年前の約30万から5万に、航空機は約1000機から140機に縮小している。

参加国は初参加のインド以外に、中国、モンゴル、ラオス、アゼルバイジャン、ベラルーシ、タジクスタン、アルメニア、キルギス、カザフスタン、シリア、アルジェリア、ニカラグアと多岐にわたっている。

これだけ多くの国が参加するとなると、実質的な戦力向上を目指すというよりは、ウクライナ侵略後もロシアは決して国際的に孤立していないことを示す政治的なショーと言わざるを得ない。5日にウラジオストクで始まる東方経済フォーラムで、プーチン大統領がそれをアピールする狙いがあると思われる。

複数の呉越同舟

インドは、武器体系の約6割をロシア製に頼っている関係上、ロシアへの義理があるが、一昨年来、中国との国境戦闘で約20人の死者を出しており、中国と共闘する気は毛頭ない。ボストークに参加した目的は、中国人民解放軍に関する情報収集と、中露の協力がどの程度まで進んでいるのかを探ることにあると思われる。

アルメニアとアゼルバイジャンは、2020年のナゴルノカラバフ紛争で戦火を交えた間柄であり、両国とも互いに共闘する気はさらさらないだろう。

モンゴルは1911年に独立後、中露密約により1915年のキャフタ会議で中国軍閥に占拠され、1921年からはロシアの衛星国となった。その経験から、中露関係の良好な時に自国の安全保障が危うくなることを知っているだけに、上海条約機構には加盟していない。従って、軍事作戦を共に行うというよりは、中露連携がどの程度かを観察することが演習参加の目的であろう。

カザフスタン、キルギス、タジクスタンといった中央アジアの国々も、程度の差こそあれ、中露間の連携を様子見する目的があると思われる。

事ほどさようにいくつもの呉越同舟が同居しており、とても参加国が団結して戦える態勢ではない。
 

中露海軍は同床異夢

中国からは人民解放軍海軍のレンハイ級ミサイル駆逐艦とジャンカイ級フリゲート、そしてフチ級補給艦の3隻が参加した。演習海域は日本海北方で、海上交通路保護訓練をロシア海軍と行ったと報じられている。

ロシアがオホーツク海を要塞化して弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)を防護するための海軍兵力は、ウラジオストクを主要根拠地としているため、宗谷海峡(結氷時は津軽海峡)を通峡する必要がある。中国海軍にとって日本海は、北極海航路が開通した際の重要航路となる。従って、中露海軍の目的は微妙に異なるのだ。(了)