公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2022.10.27 (木) 印刷する

台湾統一へ本気度を示した習近平氏 濱本良一(ジャーナリスト) 

中国共産党第20回大会(10月16~22日)で、習近平総書記は自ら読み上げた施政報告の中で台湾問題に3か所にわたって言及した。従来、台湾問題は終盤で1回触れておしまいだ。習演説をネット中継で見ていた筆者も、比較的冒頭の部分で台湾に言及したことに正直驚いた。習氏は自らの手で台湾問題を解決するという本気度を示したかったのだろう。

台湾について習氏は「台湾は中国の台湾。台湾問題の解決は中国人自身のことであり、中国人が決めるべきだ」と米国の介入を強く牽制。「決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置を取るという選択肢を残す」「祖国の完全統一は必ずや実現しなければならず、必ず実現できる」と意気込んで見せた。

習氏は政権2期目の2019年1月に台湾統一に向けた5項目提案を発表している。この中で「武力行使の放棄を約束しない」と正式に宣言した。そして今年8月、ペロシ米下院議長が訪台した直後に発表した「台湾白書」でも同じ表現が使われた。習政権としては3回目なのだが、5年に一度の党大会での施政報告に登場したのは20年ぶりだ。

今回は党規約を改正して「台湾独立には断固反対し、抑え込む」の一文を挿入した。党規約は国家憲法よりも上位に位置付けられており、台湾が「独立」したと中国が判断した場合、武力行使を発動することが、党内的に正式に確認されたと見なければなるまい。

「時間表」は表に出さず

今回の報告では、台湾統一のタイムテーブル(時間表)については一切言及しなかった。これは従来と変わらない。軍内に統一期限と侵攻計画がある可能性は高いが、その実現性については明確な目途が立たないのも現実だろう。

ただ、習政権としては「偉大なる中華民族の復興」と位置付ける目標の中間点とする2035年を一つの目安に考えていることは相違ない。長期政権をスタートさせた習氏は、その時には82歳を迎えている。

中国軍は、現状では台湾と米国、それに日本を合わせた軍事力に及ばないという合理的判断を下していよう。裏を返せば、軍事バランスが逆転したと判断すれば、中国は台湾側に交渉のテーブルに着くよう最後通告を発し、速やかに具体的な統一行動を開始するだろう。だから中国軍の増強ペースが重要な要因になる。

米国の出方がカギ

米インド太平洋軍のデービッドソン司令官が昨年3月、中国が2027年までに台湾へ侵攻する可能性に言及した。ブリンケン米国務長官は今月17日、「中国は(台湾を巡る)現状をもはや受け入れることができず、かなり早期の台湾統一を追求する決断をした」と発言し、その2日後には、ギルディ米海軍作戦部長が、「22年の可能性、あるいは23年の可能性を考慮しなければならない」との驚きの発言を行った。

常識的には、中国は11月26日の台湾統一地方選挙や、24年1月の総統選挙で台湾の動向を今一度見極め、さらには同年11月の米大統領選挙でバイデン政権が続くのか否かを見た上で、状況を判断するのではないかと思える。

ただ、そうならないシナリオが現実味を帯びている。8月のペロシ訪台が中国にとって強い脅威となり、実際の侵攻を想定した台湾全面封鎖の弾道ミサイル演習を実施したように、米国の行動に刺激・誘発される。ブリンケン発言もギルディ発言もこうした米中間の駆け引きを反映しているように見える。

米議会では台湾支援の法案の提出が相次いでおり、これを受けたバイデン政権がどのように出るのかが最大のポイントになる。ペロシ訪台をきっかけに台湾海峡の中間線越えの中国軍機の飛行は3か月近く連日のように続いている。中国の軍事的エスカレーションは、台湾本島以外の島、例えば東沙諸島などへの挑発行為が懸念される段階に達していると見られる。

日本は安全保障3文書の改定と防衛費の増加を実行し、日米同盟をできる限り強化することが必要だ。同時に「準同盟国」と位置付けるオーストラリアや欧州各国も巻き込む形で、しっかり守りを固めるべきだ。無論、日中間の外交努力も必要だが、台湾問題ではほとんど効果は望めない。(了)