公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2022.12.26 (月) 印刷する

国防教育なき安全保障は砂上の楼閣 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

12月16日に閣議決定された安全保障3文書は多くの安保関係者に高く評価され、筆者も同意するが、敢えて不満足なところを挙げると、その一つが国防教育の強化を謳っていない点である。

国家安全保障戦略の始めの方に「国家としての力の発揮は国民の決意から始まる」(5ページ)とあるのは、まさにその通りで、現在電力施設の多くをロシアの攻撃によって破壊され極寒の中にあってもなお多くのウクライナ国民が対露戦を戦い抜いているのは、この国民の決意が強固であるからであろう。

国のために戦わない日本国民

国家安全保障戦略の最後の「社会的基盤の強化」には「我が国と郷土を愛する心を養う」(30ページ)とあり、防衛力整備計画の中にも「教育機関等への講師派遣や公開シンポジウムの充実等を通じ、安全保障教育の推進に寄与する」(19ページ)という一節があるが、国防教育にまでは踏み込んでいない。

世界数十カ国の大学・研究機関の研究グループが参加し、共通の調査票で各国国民の意識を調べ相互に比較する国際プロジェクト「World Values Survey」(世界価値観調査)が2017~2020年に行った調査では、「もし戦争が起こったら国のために戦うか」の問いに対し「はい」と回答した比率で日本は13.2%と極端に低い。この現状を国防教育によって改善しなければ、いくら自衛隊に最新の兵器を与えても、砂上の楼閣になりかねない。

「普通の国」は国防義務を法制化

この調査で「はい」の回答が最も多かったのはベトナムで、96.4%であった。ベトナムは憲法で「祖国への忠誠と祖国保護及び軍事義務」が国民の義務とされ、中学校以上の授業で「国防教育」という科目が必修となっている。また中学・高校生は学期中に数日、大学生は約1か月、国防教育センターで軍事訓練を受けることになっている。

「はい」の回答が88.6%だった中国の憲法にも「祖国防衛や侵略への抵抗」が明記され、小学校以上で国防教育、高校で軍事訓練を義務化した国防教育法が2001年に制定されている。

民主主義陣営でも米国には「国家防衛基本法」があり、フランスも16歳になった全国民に団結と義務感向上のため国防や治安を含めた公共奉仕の義務が課せられている。スウェーデンでは民間防衛が義務化されて定期的な訓練が行われ、中立国のスイスでは全家庭に『民間防衛』という小冊子が配布され、核シェルターの整備を兵役に就いてない国民で編成された市民防衛団が行うなど、軍事的な任務以外を国民が担当している。

国防上「普通の国」になるには、自衛隊の反撃能力保持だけでなく、国民全体の国防意識向上が必要だ。文部科学省も巻き込んで国防教育を推進することにより、国防に背を向けている日本学術会議の問題も将来的には解消されていくものと思われる。(了)