台湾の防衛体制強化および国際的地位の向上を目指した米国の「台湾政策法」は、予想通り2023年度国防権限法に一部組み込まれ、一部積み残される形でひとまず決着した。国防権限法は上下両院を通過後、12月23日にバイデン大統領が署名して成立した。
「ひとまず」と書いたのは、来年1月からの新議会において、新たな台湾関連法案が、今回積み残された部分の新バージョンも含め、次々提出されると見られるためである。米議会の動向からは、引き続き目が離せない。
中国の武力侵攻阻止を明記
以下、現状を整理しておこう。ちなみに2023年度国防権限法の1263条から1264条、5501条から5540条が直接台湾に関する部分である。なお国防権限法に組み込むに当たり、台湾政策法は台湾強化弾力法(Taiwan Enhanced Resilience Act)に名称変更された。
さて国防権限法ではまず、「米国による有効な対処の前に、中華人民共和国が台湾を侵攻し支配する」ことが「既成事実化」するのを阻止することを政策目標として謳っている。
そのために、5年間で最大100億ドルの台湾軍事支援予算が確保された。さらに台湾からの武器購入要請には優先的かつ速やかに応じることも規定された。
即応性を高めるための米台合同軍事演習の実施も盛り込まれた。
米政府職員5~10人程度を毎年台湾に派遣することや国際機関への台湾参加を促進することなどの外交措置も規定された。
削除された金融制裁条項
一方、9月に台湾政策法が上院外交委員会を通過した段階では残っていた「中華人民共和国が軍事力を行使した場合に、直ちに招来する深刻な結果を、あらかじめ示しておく」とした部分などは削除された。
その具体的な柱は金融制裁であった。
6月の原案では、「中華人民共和国政府が2021年12月1日以前に存在した敵対状況に比べ、顕著に敵対行為をエスカレートさせた場合」米大統領は金融制裁を含む制裁を発動せねばならないとされていた。
中国工商銀行、中国建設銀行、中国銀行、中国農業銀行の中国4大商業銀行をはじめ、制裁対象とする金融機関を具体的に列挙する念の入れようであった。
9月の修正案では、金融機関の具体名が削除され、「中華人民共和国における、少なくとも最大規模の国有銀行3行を含む国有銀行5行」等とぼかされたものの、骨格はほぼ変わらなかった。
もっとも、中国の行為がレッドラインを越えたか否かを測る基準日に関し、原案の「2021年12月1日」が9月修正案では「この法の施行の時点」に改められている。今年8月初旬のペロシ米下院議長訪台直後に中国人民解放軍が行った台湾包囲大演習などは、許容範囲と位置づけるための修正だったと言える。
いずれにせよ、成立した国防権限法では、台湾に関連した対中金融制裁規定は全て削除された。「深刻な結果を、あらかじめ示しておく」側面が弱くなったことは否めない。
来年以降の米国における、そして日米間における重要課題と言えるだろう。(了)