公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2023.01.10 (火) 印刷する

海保の軍機能保持はやはり必要だ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

昨年末に閣議決定された安保3文書において、海上保安庁は海上法執行機関として位置付けられたので、軍としての機能を保持しないことを定めた海上保安庁法25条は改正の必要なしとする論調がメディアに散見される。しかし、海上保安庁と共に中国の海洋進出を阻止する米国の沿岸警備隊は、海上法執行機関であると同時に5軍(陸・海・空・海兵隊・沿岸警備隊)の一つであり、海上保安庁は軍としての機能を保持した方が日米同盟を強化して、中国に有効に対処することができる。

非軍事意識は日米協力の障害

上の図は、中国の海洋進出に対抗する米軍組織構想で、米海軍協会の月刊誌プロシーディングスの2022年12月号に掲載された。中央上部のIMFとは統合海洋軍(Integrated Maritime Force)の略で、海軍と海兵隊、そしてシンボルが表示されている沿岸警備隊の3軍統合軍のことである。中国の海上民兵、海警、海軍が統一指揮の下、戦時と平時の中間のグレーゾーン事態で既成事実を積み重ね、海洋進出を図ろうとする動きに対処することを目的としている。IMFの真下のMLRは海兵沿岸連隊(Maritime Littoral Regiment)の略で、これについては沖縄の離島有事即応部隊として米軍が創設する方針であることが10日の読売新聞で報じられた。

この図で注目すべきは、第一に3軍統合軍の一翼を担う沿岸警備隊のシンボルの下に「法執行(Law Enforcement)」と記されていることだ。これは、軍としての機能と法執行が矛盾しないことを意味する。第二は、その右に協力機関として「同盟・パートナー国の沿岸警備隊あるいは海軍」と記されていることである。すなわち、米国としては同盟・パートナー国の沿岸警備隊や海軍と協力して、中国の海洋進出に対抗する「統合海洋軍」を形成したい考えなのだ。その一環として、昨年5月に行われた日米首脳会談後の共同声明には「海上保安庁と沿岸警備隊との間の協力に関する覚書の附属文書への署名を歓迎した」という一節がある。海保と米沿岸警備隊の協力に、軍機能を否定した海上保安庁法25条に基づくメンタリティーは、障害にこそなれ促進要因とはならない。

比・越の沿岸警備隊は元海軍

西太平洋で中国の海洋進出阻止兵力として期待されている米同盟・パートナー国は、日本以外にフィリピンとベトナムであろう。この両国の沿岸警備隊は、もともと海軍の指揮下にあったので軍としての機能を有し、構成員も元海軍軍人で、戦時には海軍の指揮下で任務を遂行する。

日本の政府開発協力(ODA)は軍事的用途への使用が禁じられているので、両国の沿岸警備隊に巡視船を供与できないことが一因となって、フィリピンの沿岸警備隊は1998年に運輸通信省の配下に入り、ベトナムの沿岸警備隊は2013年に警察機関として再編された。しかし、両国とも構成員は軍の一部としての意識を持ち、米統合海洋軍と協力する上で何ら問題がない。(了)