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2023.05.29 (月) 印刷する

「信頼関係が地に落ちた」なら連立を離脱せよ 有元隆志(月刊正論発行人)

衆院小選挙区の「10増10減」で新設された東京28区(練馬区東部)の候補者調整を巡り、公明党は擁立を断念する代わりに、東京の小選挙区で自民党候補を推薦しない方針を決めた。公明党の石井啓一幹事長は「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」と自民党を非難した。一方で石井幹事長は「あくまで東京に限定している話で、自公連立政権に影響を及ぼすつもりはない」とも語った。まったく説得力がない。

連立政権はお互いの信頼関係が基本である。「地に落ちた」というなら公明党は直ちに国交相をはじめ3人の副大臣、3人の政務官を引き揚げるべきだ。連立を離脱する覚悟もなかったら、公の場で連立を組む相手を面罵すべきでない。撤回して自民党に謝罪すべきだ。自民党もこのまま公明党との連立を続けていいのか、見直しを真剣に考える時に来ている。

くるくる変わる公明の連携相手

公明党のホームページをみると、交渉の経過を説明している。それによると、公明党は「10増10減」に伴い、「新たに選挙区が増える地域での積極的な擁立をめざし、東京、埼玉、千葉、愛知に絞って、自民党と交渉を重ねてきた」としている。「半年近くにわたる交渉だったが、残念ながら、誠実な協議とは言えないことがあった。事ここに至って、自民党から応援できないと言われたことは大変心外だ」とある。

「10増」に伴い、候補者をできるだけ多く擁立したいという姿勢自体に問題はない。ただ、「10減」で減るのはすべて自民党であり公明党は1議席も減らない。それでいながら埼玉、愛知に加え東京の2選挙区目を狙い、それに自民党が抵抗したからといって「信頼関係が地に落ちた」ことになるのか。むしろ公明党の要求は欲張りすぎであり、とても連立を組む相手に配慮した発言ではない。

公明党はこれまでも2017年の東京都議選で、小池百合子都知事が率いた「都民ファーストの会」と連携し、自民党とは連携を解消した。21年の都議選では一転して、自民党との連携を復活した。今回の決定も都議選のように一過性のことと考えているとしたら大間違いである。

都議選と違って、自民党の衆院の選挙区調整は茂木敏充幹事長、森山裕選挙対策委員長が責任者となり、都連会長を務めるのは萩生田光一政調会長である。石井幹事長が「信頼関係は地に落ちた」という発言は東京に限定されたものではなく、茂木幹事長ら自民党執行部に向けられたものである。そこまで発言をするならば、これ以上自民党と連立を組むわけにはいかないという判断になるだろう。自民党の妥協を狙っての脅しにしか聞こえない。

党を牛耳る創価学会副会長

問題なのは、自民党執行部の誰もこの交渉が石井幹事長主導で進められていたとは思っていないことである。交渉の実権を握っているのは公明党の支持母体、創価学会の佐藤浩副会長である。

かつて公明党は竹入義勝、矢野絢也両委員長、市川雄一書記長らが学会を支持母体としながらも、党の独自性を維持しようと努力してきた。最近の公明党は学会、なかでも佐藤副会長に主導権を握られ追従するかのような態度を取っている。自民党も佐藤副会長と直接折衝したほうが、結論を出すのが早いので、そちらのパイプを優先するようになった。健全な政党と政党の関係でない。

公明党に太田昭宏前代表らがおり、佐藤氏とは別のパイプもあった時は意思疎通もできたが、岸田文雄政権となりそうしたルートもなくなり、佐藤副会長の力がさらに強くなった。このため、強硬論で押す佐藤副会長のいわば言いなりとなり、石井幹事長が「信頼関係が地に落ちた」などと発言する羽目となった。

政策で妥協重ねた自民

自民党も学会票を目当てに、政策面で公明党に妥協することが相次いだ。昨年2月には中国の新疆ウイグル自治区、チベット、南モンゴル、香港などの「深刻な人権状況」を「国際社会の脅威」とみなす決議を衆院本会議が賛成多数で採択したが、与党調整で当初案の「人権侵害」が「人権状況」に書き換えられ、「非難決議」から「非難」の2文字が削除された。公明の意向を自民が受け入れたためだ。

中国の人権問題では消極的だったが、公明党はLGBTなど性的少数者への理解増進を図る法案には積極的で、山口那津男代表は5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)前は「自民党が後ろ向きで恥ずかしい」と自民党を批判していた。LGBT法案は今国会で成立させず廃案にすべきである。自民党は政策面でも公明党に妥協すべきでない。

何でも公明党に押し切られるようでは、自民党の存在意義が問われることになる。(了)