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2024.09.02 (月) 印刷する

敦賀2号機の再稼働拒否がもたらす負の遺産―今こそ必要な規制委改革 滝波宏文(参院議員)

福井県敦賀市にある日本原子力発電(日本原電)の敦賀原子力発電所2号機が、原子力規制委員会の1メンバー(石渡明委員)のレガシーづくりのために廃炉にされそうになっている。

規制委は8月28日、敦賀2号機について、原子炉建屋の真下の断層が将来動く可能性を否定できないとして、再稼働の前提となる審査に不合格としたことを示す審査書の案を取りまとめた。原発の再稼働を認めない判断は2012年の規制委発足以来初めてである。

9月18日に任期を終える石渡委員の「思い出」を残すために、滑り込みで審査をしたと言われても仕方のない動きだった。規制委はこの審査で大いなる禍根を残した。

国力の維持・向上に不可欠な原子力

原子力発電による安定した安価な電力の供給がないと、製造業・ものづくりはもちろん、DX(デジタルトランスフォーメーション)や半導体産業、データセンターを含め、国の産業力、経済力を維持できず、国民の日常生活も支えられない。このことは、欧米だけでなく、我が国でも理解されるようになり、原発再稼働に賛成する国民も半数を超えるようになった。

そのような中で、敦賀市は日本初の軽水炉で商業的に原子力発電を行った所であり、敦賀市長は全国原子力発電所所在市町村協議会の会長を恒久的に務めている。まさに敦賀は日本の原子力を象徴する土地である。

原子力先進地の特性喪失の恐れ

ところが今、敦賀が日本の原子力先進地としての特性を失いそうになっている。それが、敦賀2号機の断層問題である。すでに1号機は廃炉になっている。 3、4号機は敷地まで整備されてリプレース(建て替え)の対象として想定されているが、前に進んでいない。高速増殖炉「もんじゅ」も敦賀にあるが、廃炉が決定されてしまっている。

つまり、敦賀の特性はひとえに2号機の存続にかかっている状態である。原子力規制委は以前から敦賀を標的にしている節があり、規制委発足早々の2012年冬、有識者会議が2号機の下に活断層があると判断した。しかし、同有識者会議は法的根拠のない存在だとの批判を受け、その判断はいったん無いものとされ、正式な権限のある規制委自体が改めて審査をすることになった。

長らく手が付けられなかったその審査だったが、ここに来て、規制委で断層を担当する石渡委員が、自分の任期中に結論を出すとばかりに、本人と原子力規制庁の役人で構成する審査チームを作って突然動き出し、日本原電が更にデータを集めたいと主張したにもかかわらず、5月以降の新たなデータを無視して、それまでのデータだけで2号機の真下に活断層があることを否定できないという結論を拙速に下した。

5人の委員からなる規制委は、以前より各担当の縦割りではなく合議体として機能すべしとの強い意見があったにもかかわらず、今回もこの1担当委員、しかも退任が目前に迫る委員の意見を追認しただけであった。先の通常国会での同意人事の結果、石渡委員だけでなく、複数の委員の交代を9月に控えていた規制委は、本来、新体制で改めて2号機についても審議すべきであった。

拙速な決定は大きな損失

しかしながら、原子力規制委から狙い撃ちされている敦賀は、上記のように全国の原子力立地の中でも非常に象徴的な場所であり、なおかつ、東日本大震災後に再稼働した12基のうち7基が所在する日本最大の原子力立地地域である福井県嶺南地域の人口の半分を抱える市である。今、その敦賀が特性を失い、嶺南地域の半分の住民にとって原子力が「他人事」となった場合、我が国における原子力立地への理解は大きく後退し、原子力発電の「終わりの始まり」になりかねない。その由々しき決定が、規制委の1委員のレガシーづくりのために拙速に決められてしまうことになれば、我が国にとって取り返しのつかない大変な損失である。

規制委は、改めて新しい委員による新体制の下で、2号機の新しいデータもきちんと踏まえて審査を再開し、科学技術に基づいて合理的かつ慎重に審査を進めるべきである。

規制委改革の必要性―政府のエネルギー政策との整合性確保に向けて

冒頭にも触れたように、我が国の国力と国民生活の維持・向上のため、そして、脱炭素社会の実現のため、原子力の最大限活用は不可欠である。一方、そのリスクは、発電所の足元の立地地域が引き受けている。国そして大都会が、核燃料サイクルやリプレースを含め、腰を据えて原子力事業を進めてくれなければ、立地地域はついていけないし、ついていく必要もない。(例えば、福井県内の電力需要は、県内の水力等他の発電で賄えており、原子力発電は京都、大阪など関西の大都会のためのものである。)水素等と並べて選択肢の一つだというような、単なる「腰掛け」で原子力を容認したかのような態度では、立地地域の理解は決して得られない。リスクに見合う「立地地域に寄り添う」政策が展開されるか、信用が置けないからである。

上記の「国」には当然、原子力規制委も含まれており、原子力の最大限活用を進めるという政府のエネルギー政策と規制委の審査には整合性が必要なはずである。しかしながら、敦賀2号機の審査不合格の判断に加え、8月29日、核燃料サイクルの中核である青森県・六ケ所再処理工場の完成が規制委の審査のために更に2年半も延期となったことは、この整合性に著しく疑問を感じさせるものである。

これで果たして2050年のカーボンニュートラルや2030年の温室効果ガス46%削減目標を達成できるのか、そしてエネルギーミックスや我が国の成長を確保できるのか、はなはだ心許ない。エネルギー基本計画や温暖化対策計画の改訂を含む「GX2040ビジョン」の策定に当たり、政府のエネルギー政策との整合性確保に向けた原子力規制委の改革が、今こそ不可欠である。

(筆者が事務局長を務める「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」では、今回の自民党総裁選に当たり、前回総裁選と同様、原子力関連政策についての公開アンケートを立候補予定者に対し行っており、その中で、原子力規制委改革についても見解を求めている。立候補予定者の積極的な回答を期待するところである。)