公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2025.09.22 (月) 印刷する

防衛有識者会議の提言に賛成する 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

9月19日に「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」(座長・榊原定往元経団連会長)の提言が公表された。元自衛官として、とりわけ次の2点に関して賛成の意を表したい。一つは、非戦闘目的の5類型(救難、輸送、警戒、監視、掃海)に該当する防衛装備品のみ輸出を認めてきた現行ルールの緩和要請であり、二つ目は潜水艦への長距離ミサイル搭載の意義に言及し、原子力潜水艦を念頭に「次世代動力」の導入を主張した点である。

防衛装備品の輸出ルール緩和

日本の防衛装備品の輸出ルールは、佐藤内閣が昭和42年に共産圏諸国、紛争当事国などへの輸出禁止を確認して始まったが、これを昭和51年に厳格化したのが三木内閣であった。リベラルな内閣の決定がその後数十年にわたって日本の安全保障政策の足を引っ張り、悪影響を及ぼした。防衛費を国内総生産(GDP)比1%以内にするという決定と共に、三木内閣の罪は極めて大きい。

NHKなどは日本の武器輸出制限を「憲法上の理由」とアナウンサーに言わせているが、これは大嘘だ。日本国憲法は昭和22年に施行されたが、その3年後に起きた朝鮮戦争で、日本は大量の武器輸出を行っている。

現在でも、間接的に武器輸出は行われている。筆者は防衛大学校の学生であった昭和40年代前半、「あさひ」「はつひ」といった護衛艦で実習を行った。これらは米海軍から貸与されたキャノン級護衛駆逐艦で、お互いに用を足している時に顔を合わせるオープンな大便所を今でも覚えている。これらの護衛艦は昭和50年に米国に返還されたが、その3年後にフィリピン海軍に供与され、その後も約10年間使用されている。

現在、ロシアによるウクライナ民間人への理不尽な攻撃に対し、日本はパトリオット防空ミサイルをウクライナに直接輸出できない代わりに、日本国内でライセンス生産したパトリオットを米国に輸出し、それがウクライナに送られている。間接的に武器輸出は行われているわけで、防衛装備品の輸出制限は実質的に意味を失っている。

潜水艦の「次世代動力」導入

有識者会議は、垂直発射システム(VLS)搭載潜水艦について、「次世代の動力」の活用検討を提言している。具体的には原子力推進エンジンである。

筆者は防衛大学校14期の海上要員であるが、10期代の「潜水艦屋」のほとんどは原子力潜水艦の建造、保有に反対している。これは、当時の海上自衛隊の潜水艦が宗谷、津軽、対馬の3海峡の監視を主な任務としており、莫大な費用がかかる原子力潜水艦は必要がなく、その開発・建造費用を多くの在来型潜水艦建造に振り向けるべきだったことに由来していると思われる。

防衛大学校20期代以降になると、原子力潜水艦の建造に賛成する人が多い。これは海上自衛隊の潜水艦に与えられる任務の変化と、ロシアや中国、そして北朝鮮までもが原子力潜水艦を保有しようとしている脅威の質的、量的変化が大きい。

日本は原子力船「むつ」の放射線漏れ事故以来、船舶用の原子力エンジンの開発技術が途絶え、世界の潮流から取り残されている。

国家基本問題研究所の企画委員で元財務官僚の本田悦朗氏によれば、日本の財政状況は急速に改善しつつあり、その改善傾向は主要7カ国(G7)の中でも最も顕著で、毎年10兆円程度の財政余力はあると考えられる。潜水艦の次世代動力導入は是非行って貰いたい。(了)