首相官邸幹部がオフレコを前提に「日本は核保有すべきだ」と記者団に語ったことをマスコミが報道して大騒ぎになったが、我が国が独自に核開発をすることは不可能に近いことを周知しておきたい。
保有プルトニウムは非兵器級
我が国の原子力発電所で発電に使われた使用済み核燃料は、英国、フランスで再処理され、保管されているが、これは兵器には使えない非兵器級のプルトニウムである。1年半後に営業運転が始まる予定の青森県六ヶ所村の再処理施設で、ウランとプルトニウムの混合酸化物として取り出される回収プルトニウムも、非兵器級である。
兵器級プルトニウムはプルトニウムの同位体のうちプルトニウム239を90%以上含むもので、核弾頭に使えるものをいう。我が国では、商業用軽水炉で約4年間(定期検査を終えてから約13か月運転することを繰り返して4サイクル)の運転を経て十分にウラン燃料を燃焼する間に、ウラン238が中性子を吸収してプルトニウム239に変わり、炉内でこれも燃焼させながら、更に中性子を吸収させてプルトニウム240、241、242、243と質量数が増えたプルトニウムが多く混ざった「質の悪い」プルトニウムが生成されている。
これらの質量数が多いプルトニウムは「高次のプルトニウム」と呼ばれるが、核兵器に使えず、強い放射線(ガンマ線)を出すために、人が近づくことはできない。強いガンマ線を浴びると人は即死するので、鉛やタングステンや分厚いコンクリートなどによる遮蔽が必要である。ミサイルや戦闘機に遮蔽をすれば重くて飛べないし、遮蔽をなくせばパイロットは被曝して死んでしまう。強い放射線で電子回路やCPU(中央演算ユニット)は損傷して、誘導制御もできない。
NPT体制で兵器級の生産は不可能
核拡散防止条約(NPT)に基づき、核兵器保有国(米露英仏中)は核兵器を他国に渡さず核軍縮交渉を誠実に行う義務を負い、我が国のような非核兵器保有国は核兵器を持たない代わりに原子力平和利用の権利を認められる。この体制は国際原子力機関(IAEA)による保障措置(査察)で監視されている。
ところが、NPT体制の下での核保有国は、国連安保理の常任理事国で、ウクライナを侵略したロシアは戦術核を恫喝の手段に用い、中国も核ミサイルの増強を推進している。NPTからの脱退を宣言した北朝鮮は、秘密裡に核開発を進めて水爆実験に成功し、核弾頭の運搬手段としてのミサイル開発にも成功している。
一方、我が国は非核兵器保有国の優等生として、全ての原発にIAEAの査察を受け入れ、核燃料の管理を厳格に守り、その見返りとして、使用済み燃料の再処理技術の開発と再処理工場の運転が認められている。再処理して回収したウランやプルトニウムは再び原発の運転に使えるため、混合酸化物(MOX)燃料として軽水炉(加圧水型と沸騰水型)で利用される。人類のエネルギーの2000年分を賄えるとされる高速炉にも使用される予定である。高速炉は高次のプルトニウムや高レベル廃棄物として有害なアメリシウムなども燃焼できるため、将来にわたり資源の乏しい我が国の準国産エネルギー源として期待されている。
我が国が独自に核兵器を開発することは、NPTから脱退することになり、将来のエネルギー源も失うことになる。首相官邸幹部が「核兵器保有は極めてハードルが高い」と述べた理由はここにある。
河野太郎氏がやったこと
我が国へ向かって飛んで来る弾道ミサイルを阻止するには、迎撃ミサイルを沿岸部に多数配備することが最も効果的だ。ところが2020年6月、当時防衛相だった河野太郎氏は閣議決定も経ずに独断で地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備を止めた。これにより、迎撃ミサイルは現在、限られた数のイージス艦に搭載されている。ロシアやイスラエルのミサイル攻撃は数百発を同時に発射する。このような飽和攻撃に対抗するには多数の迎撃ミサイルが必要だ。
さらに河野氏は、野党議員や反原発の活動家らと組んで、日本は6000発の核弾頭が作れるプルトニウムを所有しているとの主張を展開。その一環として、2017年2月には日米の反原発団体や米国核軍縮関係者が東京の国連大学で開催した国際シンポジウムにパネリストとして参加し、米国の参加者らにその主張を喧伝した。
外相時代の2018年6月にはIAEAに対し「日本はこれ以上プルトニウムを増やさない」と勝手に宣言した。日本政府は「使用目的のないプルトニウム(いわゆる余剰プルトニウム)を持たない」と国際的に宣言しているが、上限に言及したことはそれまで一度もなかった。先に述べたように、我が国は兵器級のプルトニウムの在庫がゼロであり、保有するのは全て非兵器級のプルトニウムである。再処理した回収燃料は、原子力の平和利用に使うことが明白に定められている。にもかかわらず、河野氏はIAEAに対し上限を一方的に宣言した。
現在の緊迫した国際情勢の中で、イージス・アショアの配備を妨害し、プルトニウムの平和利用を妨害したことは、我が国の国家安全保障やエネルギー安全保障にとって大きなマイナスになっているのではないか。現政権による厳格な精査と誤った方針の転換が必要である。(了)





