公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2026.01.05 (月) 印刷する

既視感ある米の軍事行動 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

米トランプ政権は3日、ベネズエラを攻撃してマドゥロ大統領夫妻を拘束した。先月トランプ政権が発表した「国家安全保障戦略」にある西半球重視政策のモンロー主義を具現化したものと見る向きが多い。しかし、米国が勢力圏と見なす中南米に国際法違反の軍事作戦を実行するのは、今に始まったことではない事と、モンロー主義は孤立政策ではなく、欧州(東)への憂いをなくして西に向かう政策であった事を指摘したい。

ノリエガ拘束で既に国際法違反

1989年に当時のブッシュ(父)大統領は、パナマのマヌエル・ノリエガ政権が麻薬を密輸し、独裁政治を行っているとして軍事侵攻し、最高権力者であるノリエガ将軍を逮捕した。当時のほとんどの国際法学者は、この軍事侵攻を国際法違反であると非難している。今回、トランプ大統領はベネズエラの石油権益を強調しているが、パナマの場合にも運河権益があった。

モンロー主義、実は西への膨張

モンロー主義は「米国は欧州の紛争に干渉しないが、欧州もアメリカ大陸の植民地化や干渉をしない」として、米国の孤立政策の宣言と捉える向きが多いが、実態は、西への侵攻のために、欧州との腐れ縁を断ち切る政策であった。

モンロー宣言は1823年に発せられているが、その後1846~48年の間にメキシコとの米墨戦争を行い、カリフォルニア、ネバダ、ユタの全域と、アリゾナ、ニューメキシコ、ワイオミング、コロラドの大半にテキサスと同様の管轄権を得た。

日本にペリー艦隊が到着したのは1853年である。1893年にはハワイを併合した。1898年には、スペインとの米西戦争でフィリピンを獲得した。決して孤立主義ではなく西への侵攻であった。

先月の国家安全保障戦略もポイントは台湾の重要性強調と西半球防衛であった。トランプ大統領の、台湾周辺における中国の軍事演習を問題視しない発言とは裏腹に、米国は西である台湾・中国の動向を重視するのではないかと思うと同時に、そうあって貰いたいと期待する。現に、今回の米軍事行動を最も苦々しく思っているのは、ベネズエラの石油権益を狙い、かつ躊躇なく軍事力を行使する米国にショックを受けている中国であろう。(了)