5日に米露間の戦略核軍縮条約である新START条約が失効した。当初プーチン露大統領が1年間の延長を提案しトランプ米大統領も前向きであったが、最終的には破棄に至った。トランプ大統領は同日、「将来にわたり持続可能で、改良され、現代的な条約」の策定に取り組むべきだ、と主張した。その背景には中国が加入しない戦略核軍縮交渉は無意味であると考えている節がある。
米ICBMの弾頭を3発に
米国の唯一の大陸間弾道ミサイル(ICBM)であるミニットマンIIIの弾頭は3発まで搭載できるものの、現在は核軍縮条約の縛りによって敢えて単弾頭にしている。これを3発にすることによってICBMの核弾頭は3倍に増える。

米ワイオミング州のICBM基地にて、弾頭の右は在米国防武官ツアー時の筆者
これに対してロシアは、ただでさえウクライナ侵略によって戦費がかさむ中、米国との戦略核の軍拡競争によって多大な費用がかかる。これがプーチン大統領をして条約の延期を提案させた主因であろう。
中国に関しても、米露の戦略核弾頭数が条約の縛りによって1550発の上限で止まっているうちに、米年次報告書によれば2030年頃までに1000発に到達させようと戦略核発射基地を増大させているが、米ICBMの弾頭数が3倍に増えれば、戦略核でパリティーに持ち込んで台湾侵攻の核抑止力を確保するためには、さらなる出費が必要となる。不動産バブルの崩壊等によって経済成長が鈍化している中で、多くの出費を強要されることになり、ありがたくない。
「ゴールデンドーム」阻止したい中露
5日の中国人民解放軍機関紙・解放軍報は「2期目開始後、トランプ政権はミサイル防衛システム『ゴールデンドーム』の開発を発表し、既に脆弱だった米ロ間の核軍備管理対話を根底から覆した」と報じ、トランプ政権に核軍縮交渉後退の責任をなすりつける記事を掲載している。当然ロシアもゴールデンドーム配備に反対している。
中国は、あたかも自国が軍縮に積極的であり、軍拡を試みているのは西側だとの印象操作を常套手段としている。1990年代後半に、北朝鮮の弾道ミサイルに対抗するため日米で弾道ミサイル防衛に関する共同研究を開始した際も、筆者が参加した日中間の安全保障対話で「弾道ミサイル防衛は軍拡に繋がる」とこれを阻止しようとした。しかし、その裏で自身はちゃっかり弾道ミサイル防衛努力を重ね、迎撃実験に成功していた。ゴールデンドームへの反対を口実の一つとして核軍縮に加わらない今回の態度は「あ、またか」と相手にしない方が得策だ。(了)





