公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2026.03.04 (水) 印刷する

米国の見事な情報活動と不安な兵站 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

2月28日、米軍及びイスラエル軍はイランへの攻撃を開始した。軍事的な観点から、米国とイスラエルのインテリジェンス(情報活動)における成功がこれから国家情報局を創設する日本に与える教訓と、トランプ大統領の今後の「大規模攻撃」により、将来起こり得る台湾海峡危機での弾薬不足というロジスティック(兵站)面の不安について、元防衛庁情報本部長にして、かつロジスティックを担当する統幕4室長を経験した者として述べてみたい。

イラン指導者会議の開催を察知

3月1日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、3カ所で行われていたイラン政府高官らが集まる会議を同時に空爆し、最高指導者ハメネイ師を含む指導部を一斉に殺害した模様である。また同日のニューヨーク・タイムズ紙によれば、イラン指導者がこの時間にこの場所に集まるという情報を入手したのは米中央情報局(CIA)だった。

1月の米軍によるベネズエラのマドゥロ大統領夫妻拘束作戦も同様であるが、米国のインテリジェンス能力の高さに感服する。情報収集源がCIAであるとの報道が正しければ、人的情報(ヒューミント)によるのであろうが、米国人が直接ヒューミント活動を行えばすぐに分かってしまうので、イラン国内の反政府・不満分子を買収したのだろうか。作戦には米国家安全保障局(NSA)による電波情報(シギント)も寄与していると筆者は推察する。

能力の高い暗視ゴーグルを保有する米軍は、そうでない国を急襲する場合、新月の夜に作戦を敢行することが多い。2003年の米軍によるイラク攻撃の際は、現地特有の砂嵐の周期も併せて考え、当時情報本部長であった筆者は3月20日の夜と予測し、的中した。

今回も夜間攻撃を当初予定していたが、指導者の会議があることをCIAが察知して、急遽攻撃に踏み切ったようだ。日本でも高市政権の下、国家情報局の創設が予定されているが、ヒューミントの重要性を教えてくれる戦訓である。また政策決定者にタイムリーな情報提供がなされるインテリジェンス機能を学ぶべきであろう。

台湾有事へ弾薬枯渇しないか

トランプ大統領は2日の演説で、新たに大規模なイラン攻撃を間もなく実施する考えを示した。イランとの戦闘の前に、米統合参謀本部議長のダン・ケイン空軍大将は弾薬の枯渇を懸念する報告を大統領に上げたと情報サイトのアクシオス及びワシントン・ポスト紙が報じたが、統参本部のロジスティック統括部門J-4からの悲鳴が議長に届いているのであろう。昨年6月のイラン核施設に対する限定攻撃の際、米軍は地上配備型の高高度迎撃ミサイル(THAAD)の4分の1を使用したと報じられている。

ロジスティック面での不安の影響は、日本ももろに受けている。2023年10月に来日したオースティン米国防長官は、日本が米国製の巡航ミサイル「トマホーク」を取得する時期について、予定していた2026年度から2025年度に1年前倒しすると表明したが、実際の納入は遅れている。今回の対イラン軍事作戦が大規模化、長期化すれば、予想される台湾海峡危機で米軍のミサイル等の弾薬が枯渇するのではないかと心配される。

1958年の第2次台湾海峡危機は、イラクの王制崩壊やレバノン危機で米軍が中東に介入した時に発生した。中国では今、中央軍事委員会の軍人メンバーの大半が粛清され、習近平国家主席(軍事委主席)の一存で台湾侵攻を行いやすい環境となっていることから、イランへの攻撃が長期化して米軍が中東に縛り付けられることになれば、中国は台湾侵攻の誘惑にかられかねない。

日本としては、イランにおける米国の軍事作戦が早期に終結し、米軍の兵力と弾薬に不安がない形で来るべき台湾有事に備えたいところである。(了)