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2026.03.09 (月) 印刷する

「自衛隊明記」だけではできない船舶防護 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

中東情勢の緊迫化に伴い、英仏が中東に空母を派遣して自国船舶の防護に乗り出したのに、日本は自国の船舶防護のために海上自衛隊の艦艇をすぐに派遣できない。理由は、諸外国の軍と異なり、警察予備隊から発展した自衛隊では警察法体系に基づき、許容される行動を列挙するポジティブリストになっているからだ。行動が原則自由で例外的に禁止・制限される諸外国軍と同様のネガティブリストの法体系であれば、即派遣できる。

憲法を改正しても「自衛隊の明記」だけでは依然として警察法体系であり、この問題は解決しない。平成24年の自民党案のように自衛隊を「国防軍」としなければならないことを、今回の中東紛争で改めて思い知らされる。平成30年の自民党案が「自衛隊明記」に転じたのは、連立政権を組む公明党に配慮した結果だったが、公明党が政権から去った現在、「国防軍」の明記に戻すべきだ。

トランプ大統領の「安保ただ乗り」論

トランプ米大統領は「米国が攻撃を受けても日本はソニーのテレビで様子を見ていられる」と日本の「安保ただ乗り」を揶揄してきた。今月19日に予定される高市早苗首相との日米首脳会談でも、そうした発言が出るかもしれない。

現在、中東には海上自衛隊の艦艇と哨戒機が派遣されているが、その根拠はいわゆる「海賊対処法」で、今回のような事態に日本の船舶防護には転用できない。平成13年に海上自衛隊の補給艦がインド洋に派遣された時も「テロ対策特措法」で出しているが、その度ごとに長時間の国会審議を経て派遣しなければならないのが警察法体系による現状の欠陥だ。

日本船舶防護の目的で海上自衛隊を派遣するには、新たに特措法を制定するか、さもなければ「存立危機事態」認定による防衛出動か「重要影響事態」で米軍などを後方支援する法的枠組みになるが、今のところそうした事態にまで至っていないとするのが現在の政府見解だ。

過去の不具合事例

令和5年11月に日本郵船が運航する貨物船が紅海で乗っ取られ、続いて12月に日本のタンカーがインド洋で攻撃を受けたにも拘らず、アデン湾に派遣されていた海上自衛隊の艦艇と航空機は護衛任務に就けなかった。これらの攻撃を行ったイエメンの反政府武装集団フーシ派に対し、米英軍を主体とした多国籍海軍が攻撃に踏み切った際にも、自衛隊は攻撃に加わることができなかった。攻撃後、韓国やドイツも参加した共同声明にも日本は加わることができなかったが、それはフーシ派への軍事攻撃を支持した共同声明に「集団的自衛権」の言葉が入っており、集団的自衛権の行使を是とする法的根拠がなかったからである。

この問題は1980年代のイラン・イラク戦争の時から発している。筆者の友人である米海軍軍人は、米海軍の艦艇が防護するかなりの船舶は日本向けのタンカーなのに、恩恵を受けている日本は汗を流してない、と不満を述べていたことを思い出す。(了)