再審制度の改正、中でも、再審開始決定に対する検察官の抗告を全面的に禁止するべきか否かを巡って自民党内が大荒れだった。最終的には、法務省が検察官の抗告を原則的には禁止しつつ、再審開始決定に重大な事実誤認、法令違反が認められる場合に限って抗告を認める制度を提案し、自民党がこれを了承する方向で落ち着きそうな雰囲気となっている。結果的には落ち着くべきところに落ち着いたということだろう。
再審請求者に過度の思い入れ
そもそも、再審請求棄却決定に対する再審請求者側の抗告を全面的に認めながら、再審開始決定に対する検察官の抗告を全面的に禁止する制度など、余りにも再審請求者側に偏りすぎており、公平、公正、中立でなければならない刑事訴訟制度のあり方とはほど遠い。検察官の抗告を全面的に禁止したら、仮に、重大な法令違反がある再審開始決定がなされても、これを是正することができないことになるが、そのような制度が法治国家にあっていいはずがない。
検察官抗告全面禁止派は、仮に、再審開始決定に誤りがあったとしても、それは再審公判の中で是正されればよいとする。しかし、この意見は、再審請求審と再審公判の本質的な違いを無視している。再審請求審は再審請求者側が主張する再審請求理由が認められるか否かであり、再審請求者が有罪か否かではない。一方、再審公判は確定審の被告人が有罪か否かである。したがって、誤った再審開始決定はあくまでも再審請求審の手続きの中で是正されなければならない。
誤った再審開始決定に基づく再審公判で確定審の被告人が再び有罪になったとしても、それによって誤った再審開始決定が是正されたことになるわけではない。なぜなら、本来開かれるべき理由がない再審公判が誤った再審開始決定によって開かれてしまった段階で、誤った再審開始決定は是正の余地がなくなるからだ。
検察官抗告全面禁止派も、再審請求審の審判対象と再審公判の審判対象が異なっていることは当然理解しているはずだ。にもかかわらず、その違いを無視した主張を声高に続けているのは、冤罪被害者を早期に救済しなければならないとの思いからだろう。その思いには十分敬意を表するが、残念ながら再審請求者がすべて冤罪被害者とは限らない。本当に冤罪被害者かどうかは、再審請求審で検察側、再審請求者側が必要かつ十分な主張、立証を尽くした結果として初めて明らかになるものだ。
自民部会議論は冷静に
いずれにしても、司法は、法と証拠と論理が支配する世界であるべきであり、それ故に、多数者の論理が支配する立法や行政からの独立が認められている。刑事訴訟制度はその刑事司法の根幹あるいは基盤をなすものだ。その刑事訴訟法の改正を巡る議論であればこそ、冷静かつ論理的になされなければならない。怒声あるいは感情的な言動は刑事訴訟法を議論する場には相応しくない。マスコミで報道された自民党部会の有り様は残念というほかない。
また、司法ことに刑事司法の独立は自由民主主義社会の根幹であることを考えれば、刑事訴訟制度のあり方を政治決断で決めてよいはずがない。国会で、再審制度の改正について高市早苗首相に政治決断を求めた議員がいたが、高市首相は「私の政治決断で決めてよいことではない」と答弁した。そのとおりである。(了)




