トランプ米大統領のインド太平洋政策は、中国との一層の融和へ傾くのか、それとも米国の同盟・パートナー国との連携を強めていくのか。5月14~15日の北京における習近平中国国家主席との首脳会談後、米国の台湾向け武器売却を中国との取引材料に使うことを示唆したトランプ氏の発言は、トランプ外交が日本を含む地域の同盟国にとって好ましくない方向へ向かう可能性を浮き彫りにした。
危うい台湾政策
トランプ政権は約1年前から、ホワイトハウスのウェブサイトに、大統領の公式発言の全文を掲載しなくなった。今回の米中首脳会談でも、メディアに公開された晩さん会のスピーチでさえ、短い映像以外はサイトに載っていない。首脳会談後の大統領の記者会見はなかったし、米政府高官による会談結果のブリーフィングも行われなかったようだ。そのため、外部の観測者は、大統領の気まぐれなSNS発信や、選別されたメディアとのインタビュー、同行記者団とのやり取りの断片をつなぎ合わせて、会談内容を再構成するしかない。その限られた情報源から浮かび上がるのは、トランプ大統領の台湾政策の危うさである。
首脳会談の直前、バイデン前米政権で国務副長官を務めたカート・キャンベル氏は外交専門誌フォーリン・アフェアーズ電子版に寄稿し、今回の米中首脳会談は、トランプ氏が中国への融和に傾くのか、中国の威圧や侵略に立ち向かう伝統的な同盟・パートナー国との連携へ動くのかを見極める重要な試金石になると予告した。
この視点で首脳会談の結果を見ると、トランプ大統領の中国政策がどちらに向かうのか、明確な方向が打ち出されることはなかったと思う。首脳会談で習氏は「中米関係の最重要課題」と位置付ける台湾問題について、「処理を誤れば両国はぶつかり、さらには衝突し、中米関係を非常に危険な状況に向かわせる」と述べ、戦争の可能性までちらつかせて警告した。しかし、トランプ氏は聞き流し、次の話題に移ったと報じられた。トランプ氏は習氏の強硬な主張に反論しなかったが、同調もしなかったのだ。
さらに、トランプ氏本人が中国から帰国する機上で同行記者団に語ったところでは、習氏から、台湾をめぐる紛争に米国は軍事介入するかと直接尋ねられたのに対し、「そういうことについては話さない」とかわした。米国の伝統的な台湾政策である「戦略的曖昧さ」を維持したのである。
中国との経済取引を優先?
しかし、トランプ氏が北京滞在中にFOXニュースとのインタビューで行った発言は、台湾や日本を懸念させるに十分であった。棚上げされている総額140億ドルに上る大型の台湾向け武器援助を承認するかとの質問に対し、「その件は保留にしていて、中国次第だ。これはわれわれにとって非常に良い交渉材料になる」(I’m holding that in abeyance and it depends on China. It’s a very good negotiating chip for us)と答え、中国との取引によっては台湾に防衛用の武器を売却しないこともあり得ると示唆したのだ。
第2次トランプ政権は昨年12月に発表した国家安全保障戦略で、中国について「国際秩序をつくり替える意思と能力を持つ唯一の競争相手」(バイデン政権の2022年国家安全保障戦略)とか「戦略的競争相手」(第1次トランプ政権の2018年国家防衛戦略)といった定義付けを放棄し、中国との経済関係を重視する実利優先の立場を打ち出した。この基本路線を踏まえれば、中国との経済取引の見返りに台湾の安全を犠牲にする決定を下しても不思議ではない。
焦点は武器売却の行方
FOXニュースとの別のインタビューでは、トランプ氏が中国との関係を再び「G2」と呼んだことも気に掛かる。米中の両超大国が世界を管理することを示唆するこの言葉は、昨年10月のソウルでの米中首脳会談の際にトランプ氏によって使われた。昨年12月の国家安全保障戦略は、西半球(南北アメリカ大陸)が米国の勢力圏であることを宣言する一方で、アジアの地域覇権を中国に許さないことを明確にしており、「G2」は太平洋を米中両大国が東西で分割支配することを必ずしも意味しない。しかし、トランプ氏がこの表現を繰り返す真意は不明で、警戒を怠らない方が良い。
いずれにせよ、今回の米中首脳会談ではトランプ氏の明確な中国傾斜は見られなかったものの、台湾向け武器売却問題の行方が今後の焦点となる。(了)




