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2020.11.27 (金) 印刷する

「武漢ウイルス対策 現状とこれから」 松本尚・日本医科大学教授

 松本尚・日本医科大学教授・千葉北総病院副院長・救命救急センター部長は、11月27日、国家基本問題研究所の企画委員会にて、櫻井理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。

武漢ウイルスが発生したとき、医療や行政の現場では何が起きていたのか。問題点や反省点を列挙することで、今後の対応に活かしていきたい。

まず、大規模災害や多傷病者が発生した場合、DMAT(Disaster Medical Assistant Team)という災害派遣医療チームが現場に駆け付ける。これは、医師、看護師、業務調整員で構成される機動性を持った専門医療チームだが、法的根拠は脆弱で、出動要請に基づくボランティアベースである。そのため、今回の場合、検疫作業という急激に増大した医療ニーズがあったが、隊員の感染を危惧してDMATへの派遣を渋る医療機関が多数あり、即応性も担保できなかった。その反省から、DMATは政府直轄で動かせるような法整備が必要であろう。

次に、地方行政の問題点だが、入院調整、情報収集、臨時医療施設設置、クラスター対応支援など、多岐にたる対応を余儀なくされ、部局ごとの業務調整・連携に不慣れな点が散見された。そもそも、設置された対策本部の位置づけが不明確で緊急事態に脆弱な組織だという根本的な問題が原因とも言え、日頃から緊急時対応の訓練を積んでおく必要がある。

医療を提供する病院では、病床確保が重要な課題なのだが、公的病院、民間病院にかかわらず、都道府県庁からの「お願い」ベースで進められている。その結果、期待病床数の約50%(千葉県4月)にとどまるという事態に。さらに、病床数を確保するため、臨時医療機関を設置する必要があったが、関係法令の壁が立ちはだかった。今後の法整備に期待したい。

他方、病床数が逼迫する中、軽症者や無症状者を隔離するためにホテルを利用するという施策は良かったのではないか。ただし、ホテルとの契約内容が医療側のニーズと合致しないというギャップができたり、隔離を拒否する感染者が多数出たり、問題点も多い。

各地域の医師会によっては、行政、保健所と一体となって対応しているケースが見られた。ただし、感染を恐れて発熱患者を診ない開業医も多く、日本医師会の指導力に期待したい。

今回、保健所にはコロナ対応において過重な負担がかかった。ヒト・モノ・カネを投入しなければ継続的な運営は困難である。将来的には災害時保健医療の司令塔として機能するよう組織化すべきである。

今後の体制として、非常時の組織建てを整えること、関係機関の過負荷を軽減するためPCR検査から抗原検査に移行すること、本来入院すべき致死率の高い患者が優先される入院基準とすること、などにより武漢ウイルスとの共存に向けた社会全体にシフトチェンジしていかなければならない。

国全体としては、経済活動と感染対策を同時に行っていくことも重要な点である。経済活動はしっかりと科学的根拠のある対策のもとで行われることが必要なのだが、現状は無意味な対策と報道で、市民の不安ばかりが煽られていることが問題であると警鐘を鳴らした。

【略歴】
1962年、石川県金沢市出身。1987年金沢大学医学部卒業。専門は救急・外傷外科学、災害医療。金沢大学医学部付則病院救急部・集中治療部講師、日本医科大学救急医学准教授などを経て、2014年から現職。

千葉県医師会理事、千葉県災害医療コーディネーター、防衛省メディカルコントロール協議会部外有識者委員などを兼任。フライトドクターとして医療に当たる日本のドクターヘリによる救命救急医療の第一人者。 

(文責国基研)