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2025.09.26 (金) 印刷する

総合安全保障プロジェクト 月次報告会・メディア向け報告会  中川真紀・国家基本問題研究所研究員

今月の総合安全保障プロジェクトの月次報告会は、中川真紀・国基研研究員による「中国抗日・世界反ファシズム戦争勝利80周年軍事パレード」について、早朝第1部は、国会議員をはじめ企画委員に向け、昼からの第2部は、主要メディアに向け、それぞれ実施した。

第1部:総合安全保障プロジェクト・月次報告会(午前8時~9時)
「中国抗日・世界反ファシズム戦争勝利80周年軍事パレード」に関する報告概要は以下のとおり。
【概要】
〇中国の軍事パレードとは

一般に軍事パレードは、閲兵式(検閲官が整列した部隊の威容を検閲する)と分列式(部隊が検閲官の前を行進するパレード)で構成される。中国の場合、パレードの先頭は旗衛隊(旗を守る部隊)であり、その旗の順番は共産党旗、国旗、隊旗である。したがって、検閲官である習近平氏の肩書を紹介する場合も中共中央総書記・国家主席・中央軍委主席の順となる。

また、部隊の指揮官は司令官と政治委員が並んで立つ。このことが示すように、人民解放軍は「共産党の軍隊」であり、党が統制する事を部隊に徹底し、人民に周知させるための重要な儀式なのである。

今回のパレードは抗日・世界反ファシズム戦争勝利80周年を謳うが、中国の軍事パレードは1949年の建国式典(国慶節)以来、国慶節の10月1日に行われてきた。それを2015年に習近平政権で初めて9月3日に実施し、抗日・世界反ファシズム戦争勝利70周年として開催したのは、第2次世界大戦の戦勝国と共に戦争に勝利したのは国民党ではなく共産党だという正統性を国内外にアピールすることが狙いである。

〇パレードの注目点
・事前訓練
衛星写真を分析すると、6月以降、北京郊外にあるパレード専用訓練場が今回のパレードの訓練に使用されたことが分かる。本年3月頃から各部隊は吉蘭泰ロケット軍訓練場等各駐屯地で訓練を開始し、その後、天安門を模擬したパレード専用訓練場で本番を想定した訓練を終え、約半年という期間を要したことから、中国軍の本気度が窺える。

・外国要人
今回の外国要人参加者を見ると、中国が影響力を強化している国が前回よりランクを上昇させていることが分かる。習近平主席がプーチン氏と金正恩氏を従えた映像が配信され、全世界に衝撃を与えたことは言うまでもないが、ASEAN加盟国ではインドネシアとマレーシアが首脳級となり、フィリピンを孤立させることを企図していると思われる。南アジア諸国では、モルディブとネパールが首脳級となり、インド周辺国に対する中国の影響力をインドに誇示する形となった。

・参加部隊と指揮官
今回の参加部隊を見ると、システム作戦能力、新領域戦力、戦略威嚇能力を重視した関連部隊が梯隊(縦長に車列を配置した隊形)を作り行進し、その存在を強調したと言える。
部隊指揮官は、過去には戦区司令官だったが、今回はランクが下がり、戦区空軍司令官となったのには、反腐敗摘発が継続していることを示している。

〇各梯隊の状況
・新領域戦力
空中装備品では、J-20S重型ステルス戦闘機複座タイプが登場した。これは後席の搭乗員が無人機をシステムとして統制して運用するもので、新領域の一分野として注目される。
サイバー戦や電子戦において、情報支援梯隊が登場した。戦場ネットクラウド車、デジタル・インテリジェンス車、宇宙・地上ネットワーク車、情報融合車で構成され、全部隊が瞬時に情報を共有できるシステム作戦能力をアピールした。

加えて、サイバー空間作戦梯隊や電子対抗梯隊も登場し、それぞれ専門領域ごとに細分された部隊があることも示した。

・無人関連装備
陸上装備品では、陸上無人作戦梯隊が登場した。無人偵察打撃装軌突撃車、無人地雷処理車、無人分隊支援車にはロボット犬まで随伴させ、少子化に対応していることもアピールした。
海上装備品では、海上無人作戦梯隊が登場した。無人潜水艇や無人艇は、有人艇よりも小型でステルス性を向上させていることが分かる。

空中装備品では、空中無人梯隊が登場した。有人機に随伴し偵察・電子戦などを行う無人機や、艦載無人機など、無人機単体の運用だけでなく、複数の無人機と有人機が融合したシステムとしての運用が想定されている。
敵無人機への対抗部隊として対無人機梯隊も登場した。レーザー防空システムや高出力マイクロ波防空システムなどを搭載した車両を見ると、第1線から後方まで、それぞれのレベルで対応する対無人機装備があることが分かる。

・戦車に搭載された対無人機・無人機装備
地上突撃梯隊として登場した100式戦車と100式支援戦闘車も注目に値する。100式戦車には砲塔部の4か所にフェイズドアレイレーダーを搭載し、敵の無人機やスマート弾からの防御機能を向上させている。100式支援戦闘車の後方には無人機が搭載され、専用オペレータが搭乗し、戦闘の第1線で無人装備を総合運用する随伴支援という新たな作戦概念を体現したものと考えられる。

・戦略威嚇ミサイル
巡航ミサイル梯隊の中でCJ-20A空中発射巡航ミサイル、YJ-18C艦対地巡航ミサイル、CJ-1000地上発射極超音速巡航ミサイルなどを登場させたことは、日米のBMDを多種多様な巡航ミサイルで突破し、第1列島線内に存在する在日米軍等の活動を妨害する領域拒否(AD)やグアム基地まで攻撃可能との戦略的なメッセージであろう。

加えて、極超音速ミサイル梯隊には、YJ-21空中発射極超音速対艦弾道ミサイル、DF-17極超音速滑空体搭載準中距離弾道ミサイル、DF-26D極超音速中距離弾道ミサイルが登場した。DF-17は第1列島線を、DF-26Dは第2列島線を射程に収め、空中発射のYJ-21はグアム方向から台湾に来援する米軍の接近阻止(A2)が可能とのメッセージともいえる。

さらに、最後に登場した核ミサイル梯隊だが、JL-1空中発射弾道ミサイル、JL-3潜水艦発射弾道ミサイル、DF-31BJ固体燃料サイロ式及びDF-5C液体燃料サイロ式大陸間弾道ミサイルが並び、米国に対する核の3本柱(トライアド)の完成をアピールした。

〇まとめ
今回の軍事パレードでは、多種多様な新装備が行進し、新領域部隊が新編されるなど、中国の軍改革が着実に進展していることが誇示された。

中国の企図することは、国内に対しては、共産党の正統性を喧伝し、自軍に対しては、旧体制を一掃し、システム作戦・新領域戦力への転換を徹底し、米国に対しては、A2/AD能力に資する兵器を展示し、台湾有事への介入を牽制した。
軍事パレードは、アピール的な要素が強いが、今後の配備、運用状況に注目しつつ、わが国としては、対中抑止能力を高めるため、戦略3文書の早期見直し、具現化が必要である。

資料PDF 中国抗日・世界反ファシズム戦争勝利80周年軍事パレード

第2部:総合安全保障プロジェクト・メディア向け報告会(午前11時半~午後1時)
昼から実施したメディア向け報告会では、中川研究員が「中国抗日・世界反ファシズム戦争勝利80周年軍事パレード」を報告した。報告の最後に岩田企画委員(元陸幕長)から、今回の軍事パレードは新領域装備を誇示した形であり、そのあり方は、わが国にとっても参考となることが多いと総括した。

報告の後、出席記者からの質問に答える形で補足説明も行われ、活気ある議論が展開された。質疑応答の例は以下のとおり。

【質疑応答】
Q:中国の軍事パレードにおいて装備品が登場する順番はあるか。また、新たな装備品の能力をどう評価するか。
A:原則として、戦闘部隊→戦闘支援部隊→後方支援部隊→ロケット軍の順。本年は部隊の枠を越えて、巡航・極超音速ミサイル梯隊を設けており、中国が強調したい兵器であったことが窺える。
性能に関し、航空機や無人機については、珠海のエアショーなどで紹介されている以上のことは分からないし、ミサイルの性能についても、報道ベースでしか判断できない。先日、空母福建が電磁カタパルトを使用して実機を発艦させたことから、試験運用のレベルには来ている。実運用の段階と言えるかについてはまだ分からない。新たな装備品は、各部隊に配備され、実運用の結果を見ないと正しく評価することはできないだろう。

Q:今回の軍事パレードは将来兵器のオンパレードだが、台湾有事の軍事オプションが現実になってきたと評価できるか。また、戦略3文書具現化の意味することは何か。
A:台湾有事は現実的になってきていると言えるが、まさに中国の本音は侵攻したくないのであり、軍事オプションが現実に可能であるというレベルにまで引き上げていることを意味する。本当は中国の言う「平和的統一」が望ましいのであり、米軍や日本を阻止できる能力があることをパレードで示し、頼清徳氏に抵抗する意思を諦めさせるのが目的である。

日本の戦略3文書は、すでに時代遅れになっているから、見直すのは当然である。宇宙領域でキラー衛星の発想が出てきたのは最近の話で、速やかに反映すべきである。核についても米国頼みのまま、議論の対象外であったが、米国に不安が残る中、議論の俎上に乗せる必要がある。

Q:中国がパレードをして軍事力を誇示する中、自衛隊の観閲式は中止とされた。自衛隊にとってその影響はあるかを聞きたい。
A:共産党独裁政権の中国にとって、パレードは共産党の権威を内外に示す重要な儀式だが、民主主義諸国の多くはパレードを重視していない。軍隊が重視すべきはパレードより実戦で役立つことであり、パレードに費やす時間とお金と労力は、訓練に役立てるべきである。これまで毎年実施してきた自衛隊も、人材募集や国民の理解の促進等の機会が失われるというデメリットはあるものの、ようやく本来の姿になったということ。

この総合安全保障プロジェクトの月次報告会・記者向け報告会は、今後とも継続実施していく予定である。 (文責 国基研)

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