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2025.10.31 (金) 印刷する

総合安全保障プロジェクト 月次報告会・メディア向け報告会  中川真紀・国家基本問題研究所研究員

今月の総合安全保障プロジェクトの月次報告会は、中川真紀・国基研研究員による「中国軍の模擬台湾施設訓練場」について。早朝第1部は、国会議員をはじめ企画委員に向け、昼からの第2部は、主要メディアに向け、それぞれ実施した。

第1部:総合安全保障プロジェクト・月次報告会(午前8時~9時)
「中国軍の模擬台湾施設訓練場」に関する報告概要は以下のとおり。
【概要】
 中国人民解放軍は2010年代以降、台湾侵攻作戦を想定し、台湾総統府や台北市を模擬した施設の拡充を行ってきた。施設が所在するのは内モンゴル自治区の朱日和(ジュリフ)訓練基地で、2014年に模擬総統府・飛行場地区が概成し、2017年には建軍90周年パレードも行われた。続いて2020年に模擬総統府地区の拡張が開始され、2022年に弾薬庫地区が新築された。また内モンゴル自治区阿拉善(アルシャー)盟近郊にも模擬台北市と見られる施設が建設され、2024年に運用を開始した。以下、それぞれの特徴を解説する。

〇模擬総統府(朱日和)
・総統府訓練地区

模擬総統府は内モンゴル自治区朱日和にある中国軍最大(1066㎢)の合同戦術訓練基地にあり、衛星写真を見ると、総統府だけでなく実際に存在するその他公的庁舎、例えば司法院や外交部なども、ほぼ実物と同様に位置や大きさなども模擬されていることが分かる。中国の公式テレビ放送CCTVが2015年の陸軍実動演習「跨越2015朱日和」を報じた中でも、台湾総統府を模した建造物が鮮明に映っている。

総統府訓練地区は2020年以降も拡張を継続しており、2025年の時点で2018年と比べ約3倍に拡張されている。特に、2020年の衛星画像に、模擬総統府と模擬司法院の間で地下トンネル工事を確認できたが、2021年の画像ではすでに埋め戻されており完成していることが分かった。このトンネルの目的は、総統府への侵入や脱出阻止の訓練をするためではないかと推定される。

・訓練状況
さらに、模擬総統府周辺における2022年の訓練状況を衛星画像で確認すると、参加車両数などから旅団規模までの部隊が訓練していることが分かる。また、模擬総統府に向け真直ぐに伸びる大通りには障害物を設置し、ロシアのウクライナ侵攻で首都キーウに設置された障害物の教訓(処理に時間のかかる複合障害など)を考慮した突撃訓練を実施していることも分かる。本年7月に台湾で行われた漢光演習41号でも、台湾は首都防衛のため幹線道路に数線に渡る障害物を設置しており、実際の台湾侵攻を相当意識しているものと思われる。

・周辺地区
周辺には弾薬庫地区が新設された。2020年8月までに工事が開始され、2022年9月の段階で防護壁に加え、避雷針も設置されていることから、運用段階に達していることが分かる。つまり、各種弾薬の保管や実弾射撃訓練などのための環境が整えられたということである。実際CCTV(中国中央電視台)が、本年9月に飛行場・ヘリポート地区で第82集団軍陸航旅団の武装ヘリによる実弾演習を報道しており、各施設が有機的に機能している模様を伺うことができる。

〇模擬台北市(阿拉善盟)
衛星写真を見ると、朱日和の西方、内モンゴル自治区阿拉善盟には台北市を模した模擬台北市の建設が進んでいることが認められる。2022年2月に工事が初確認された後、2024年4月には車両痕が確認され、運用が始まったことが伺える。2025年8月には、アンテナを搭載したような軍用車両と共に無人機のような回転翼機が確認されたことから、軍が研究開発機関と共に新装備等の運用試験を実施している可能性がある。
ちなみに、9月3日に行われた軍事パレード(既報告)において無人ヘリなどの無人装備が多数随行していた。無人装備の部隊運用試験は各所で活発に行われており、実戦化のレベル向上が伺える。

〇模擬施設建設の背景
2013年に軍改革が公表されてから、組織改革、制度改革、戦備改革、新領域改革と着実に歩みを進めてきた人民解放軍だが、それとともに戦争準備の一環として実戦を想定した模擬施設の建設を進めてきたという経緯がある。

2020年11月の「中国人民解放軍統合作戦綱要(試行)」以降、訓練と戦争準備が一体化し、統合訓練は単なる訓練というよりも戦争準備の位置づけとなり、訓練から戦争への速やかな転換を可能にしていると、中国軍機関紙・解放軍報で表明している。このことは台湾側も認識しており、2025年10月の国防報告書では、着上陸部隊はより実物に類似した環境で訓練し、「訓練から戦争」の方式で台湾と友好国に対応のいとまを与えないことを中国側は企図していると分析する。

〇まとめ
中国軍は模擬台湾施設訓練場を着実に整備してきた。その目的は、軍改革と並行して台湾に類似した訓練場を整備し、侵攻時と同様の環境を作為、斬首作戦やターゲッティング等の予行を実施するためと評価できるだろう。加えて、模擬台北市を使用して、無人装備・電子戦関連装備等の性能確認や運用要領の検討を実施し、台湾侵攻統合作戦に資する新領域戦力の強化を図っている可能性がある。

今後の見通しだが、4中全会で採択された「第15次5カ年計画基本方針」(2025.10.23)にも示されたが、中国軍は2027年の建軍100年奮闘目標において、台湾侵攻戦備の完了と、新領域戦力の発揮を重視しており、新領域関連装備品の部隊配備や、それらを使用した模擬台湾訓練施設での演習が加速する可能性がある。

第2部:総合安全保障プロジェクト・メディア向け報告会(午前11時半~午後1時)
昼から実施したメディア向け報告会では、中川研究員が「中国軍の模擬台湾施設訓練場」を報告した。報告の後に岩田企画委員(元陸幕長)が、今回の報告から、中国軍が台湾の中枢を模擬した施設を作り、実際の場面を想定した実戦訓練の段階に至っていることが分かるとし、わが国は更に緊張感を持たなければならないと総括した。

報告の後、出席記者からの質問に答える形で補足説明も行われ、活気ある議論が展開された。質疑応答の例は以下のとおり。

【質疑応答】
Q:台北市中心部への侵攻の具体的なイメージは、また迎え撃つ台湾側の態勢はどうか。
A:様々なシナリオが考えられるが、台湾侵攻は時間との闘いになる。だから総統府における斬首作戦が最も効率が高い。但し、斬首部隊を孤立化させては撃破されてしまうので、その際は海岸からの着上陸部隊と空挺・ヘリボン部隊が合流して、総統府を押さえることになるだろう。迎え撃つ台湾側は、幹線道路やヘリボン適地に障害を作って対抗訓練をするなどの態勢をとっている。

Q:模擬訓練施設での訓練頻度とその規模を問う。また模擬総統府の地下道の使い方を教えて欲しい。
A:常時撮影でない衛星画像からは頻度を判断することは難しいが、訓練が活発になる7~9月にかけては模擬訓練場で部隊が確認されることが多い。規模については、車両の大きさと台数から概算すると、大隊から旅団規模と考えられる。地下道を使った作戦では、模擬総統府での訓練は確認できないが、報道では地下道を無人装備で偵察し、陸軍歩兵部隊が追随して突撃するという訓練が確認できる。

Q:衛星写真から模擬台北市で確認された車両が、サイバー空間作戦車両や電子対抗車両などの新領域装備車両の可能性もあるとの説明だったが、どのような役割があるのか。
A:公的な説明がないため外形から判断するしかないが、全周波数に対応できるアンテナがあり、宇宙空間の衛星と交信する装備があることから、サイバー戦や電子戦全般をカバーする役割ではないだろうか。

Q:いざ台湾有事に際し、わが国はどのような準備が必要か。また現地企業が行動を起こすタイミングを問う。
A:仮に戦争となった場合、中国の狙いは速戦即決であろう。わが国は台湾在留邦人の保護、台湾からの住民避難、中国大陸の邦人にも同時に対応する必要があり、事前の準備が必要になる。ただし、政府のみの力では不可能であり、現地企業が自主的に行動することも必要だ。

タイミングの件だが、戦争前に政府から企業に示すことは難しいだろう。その場合、企業としては、アンテナを高くして自主判断することになる。

Q:今後新たに整備する模擬訓練施設はあるか。
A:朱日和の施設をさらに拡張する余地はある。拡張するなら着上陸訓練施設の縦深拡張が適当ではないかと考える。上陸後の侵攻経路を模擬できるなら、本格的な着上陸訓練が可能になるからだ。

Q:先ごろ行われた4中全会で軍の高級幹部が大量に処分されたが、その理由は何か。
A:汚職の他に、新領域に対応できない古い体質の軍人を処分したという側面は否めない。

この総合安全保障プロジェクトの月次報告会・記者向け報告会は、今後とも継続実施していく予定である。 (文責 国基研)