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2025.12.15 (月) 印刷する

『情報戦への備え:いま早急に対応すべき課題』 平石積明・前公安調査庁調査第二部長

前公安調査庁調査第二部長の平石積明氏(株式会社オリガミツキ代表取締役)は、12月12日、国家基本問題研究所企画委員会にて、自身の勤務を振り返り、海外の諜報機関とも連携してきた経験などから、国家情報局創設やスパイ防止法の必要性などを述べ、その後櫻井理事長をはじめ企画委員からの様々な質問に答え、意見交換を行った。
平石氏の経験談などを総括すると、概ね以下の通りである。質疑応答についても概要を付記した。

【概 要】
1975年当時、南ベトナムの首都であったサイゴンが陥落(南北ベトナムの赤化統一)したが、その直前に日本に引き上げたという自身の過酷な経験から共産主義に興味を持ち、その興味を生かせる職場という発想から公安調査庁を職業として選択した。当初の勤務は1990年の即位の礼にからみ過激派担当が割り当てられたが、その後は対外部門で仕事をし、勤務期間中には、3つの大きなトレンドがあった。

1991年12月にソ連が崩壊すると、対共産主義という組織の目的から公安不要論も出た中で、1995年に地下鉄サリン事件が発生し、対カルト集団という目的が加わった。これが第1で、第2は2001年に米中枢同時多発テロ発生後の国際テロ対策。第3は、約10年前から米中大国間の競争時代に入り、経済安全保障の重視というトレンドである。

このような職務を通じ、長年の課題で実現困難であった国家情報局やスパイ防止法の必要性を痛感しており、情報に対する意識の高い高市政権への期待は大きい。

〇国家情報局の創設は喫緊の課題
2014年に国家安全保障局(NSS)が発足して以降、政府内で安全保障政策が立案できるようになったが、政策サイドと対になるべき情報サイドにおける統括機関が不在のまま、安全保障の対象だけが広がり、その対応に各情報機関が追われるという状況である。だからこそ、省庁毎の個別ではない国家としてのインテリジェンスを実現する国家情報局の創設が求められるのである。

わが国の情報コミュニティ5機関(公安調査庁、外務省国際情報統括官組織、警察庁警備局、防衛省、内閣情報調査室)の中で、公安調査庁は国内と国外両方の情報活動を専業としている。米国ではCIAは国外、FBIは国内というように、国内と国外を一つの組織で扱う情報機関は世界でも少ない。物理空間とサイバー空間の融合が進む中で、今後、わが国の国家情報局の議論でも国内と国外の切り分けをどうするかは、問題の一つと認識する。その他、国外の情報収集活動、いわゆる工作活動などの法的裏付けなども解決すべき課題と言える。

〇情報戦に対応する法整備を急げ
わが国の情報保全という観点では、2014年に特定秘密保護法が施行され、ようやく新たな段階に入り、米国との情報共有の質を高めることが可能となったことは成果だが、スパイ防止法がまだないことで、外国のスパイを摘発する法的根拠がないことは大きな問題である。

加えて懸念国は情報戦を得意としており、デジタル時代の情報拡散の影響は大きい。フェイクニュースの拡散などの影響工作にも網をかけていく必要がある。こうした観点から欧米諸国が導入している外国代理人登録法のような対影響工作に関する法整備も必要となる。

【質疑応答】
Q 日本は、各情報組織がバラバラに活動していると言われるが、その弊害は何か。
A 現在は情報組織5機関がお互いに連絡を取り合って情報共有がかつてなく進んできたが、依然として省益に基づく活動であり分析などは重複して行われている。政策サイドにおいて、NSSができたことで、政府が一体となって国家として安全保障政策の遂行が可能となったように、情報サイドも、司令塔となる国家情報局を創設することで、小さくバラバラに行われている情報活動を統合してナショナルインテリジェンスにしていくことが不可欠であり、それが国家国民の利益増進につながる。

Q 創設が期待されている国家情報局は、今後わが国情報活動の核となるだろうが、公安調査庁はどのような位置づけとなるか。
A 海外でも情報収集ができるように法整備し、外務や防衛とともに手足となって活動することが求められるだろう。対外情報であれば、これまでの活動とも親和性があるため、そのノウハウや知見が蓄積されている公安調査庁を、国家情報局の直轄組織として有効活用するのが適当と考える。

Q 公安調査庁は情報専門家はいるが、他の専門性という観点はどうか。たとえば公安調査庁には輸出管理の専門家がいないので、経産省が要求する情報がとれないと思うがどうか。
A 政策サイドの情報(省庁が政策として扱う)であれば、政策を熟知している政策サイドの方が情報収集するメリットがあるとのご指摘の点はあるかもしれない。国家情報局が創設され、国家として優先順位が定まり、情報サイドに政策サイドのニーズに照らして情報要求が行われるようにするなどその方法には工夫が必要と考える。また、例えば、北朝鮮に対する輸出管理案件があったとして、政策サイドの問題としてではなく、拉致問題などの取引材料に使うという国家としての判断が下された場合、情報サイドを統括する国家情報局がオペレーションを担うことも必要になるだろう。

Q 拉致問題について、これまでの公安調査庁の取り組みを知りたい。
A 拉致問題の現状は、内閣官房に設置された拉致対(拉致問題対策本部)に各情報機関の一つとして情報を上げてきた。

Q 公安調査庁の要員が海外で活動するときのパスポートの扱いについて聞きたい。また現地の協力者を保護することはできるのか。
A 通常の手続き(パスポート)で出張する。その際にカバーをかける措置(偽装工作)は現行法上困難である。加えて協力者の保護は重要だが、その法的裏付けもない。任意で可能な範囲で行う。これらも今後早急に整備すべき大変重要な課題と考える。

【略歴】
南ベトナム生まれの61歳、平成2(1990)年4月公安調査庁入省、総務部渉外広報調整官、那覇公安調査事務所長、九州公安調査局長などの要職を経て、調査第二部長を最後に今年3月退官した。現在、株式会社オリガミツキを創業し代表取締役を務める。日本にセキュリティ人材が不足していることから、人材を育成して企業に配置することをビジネスモデルとして行っている。 (文責 国基研)