公益財団法人 国家基本問題研究所
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2026.06.01 (月) 印刷する

総合安全保障プロジェクト 月次報告会

今月の総合安全保障プロジェクト月次報告会は、まず中川真紀・国基研研究員が「中国ロケット軍の動向(射爆場についての分析)」を、続いて吉田正紀・元防衛大臣政策参与が「米中首脳会談が与える日本への示唆」を、岩田清文・元陸上幕僚長が、「長引くイラン戦争とその教訓」について、それぞれ報告した。

第1部は国会議員に向け、第2部は主要メディアに向け報告し、参加した議員、記者、企画委員らの質疑に応じた。以下、その概要を簡単に紹介する。

【月次報告】
国会議員向け(午前8時~9時30分)、メディア向け(午前11時30分~午後1時)

●『中国ロケット軍の動向(射爆場についての分析)』中川真紀・国基研研究員

・中国のミサイル実験場とその要領
中国の主なロケット軍ミサイル発射場はゴビ砂漠周辺のIRBM等の発射試験を行う酒泉衛星発射センター(甘粛省)、ロケット軍部隊訓練を行う吉蘭泰ミサイル発射試験訓練場(内モンゴル自治区)、ICBM等の発射試験を行う太原衛星発射センター(山西省)などがあることは前回に報告した通りである。

今回は、西部のタクラマカン砂漠周辺に点在する射爆場を中心に見てみたい。通常は他国にミサイルのテレメトリー信号(飛翔体が自動発信する諸元情報)や落下物を補足されないよう、発射場から西方に向け射撃するので、射爆場は中国西部の砂漠地帯に所在する。

たとえば、若羌西射爆場は対海軍目標、若羌東射爆場は対空軍目標、玉門射爆場は対海・空軍目標を設置し、また、太源衛星発射センターから若羌西射爆場までは2075kmの距離があり、発射後の制御によりいくつかの飛翔軌道(ロフテッド軌道、ディプレスト軌道、ミニマムエナジー軌道など)の実射が可能である。

・対海軍目標(玉門、若羌西)
射爆場における対海軍目標の状況を見てみたい。まず、玉門射爆場には台湾の蘇澳海軍基地に類似した固定艦艇を模擬した施設があり、2013年11月の衛星画像では3隻の基隆級駆逐艦を模擬した目標が確認されたが、2016年10月の画像ではすべて撤去されている。撤去以降、新たな目標は未確認であり、軍港内停泊艦艇への射撃要領の検証終了の可能性がある。

次に若羌西射爆場には固定艦艇目標と移動艦艇目標がある。固定艦艇は、空母の外形を模した目標(米空母R・レーガンに類似)が2019年7月以降に確認され、2022年と23年にシートの剥離があったことから、実射検証が行われた可能性がある。空母目標の周囲にはアーレイバーク級駆逐艦に模した目標も配置され、空母打撃群の中でミサイルが随伴艦と空母を確実に識別して着弾させる検証が行われた可能性がある。

移動艦艇目標は敷設されたレール上を移動する方式で、これまで二つの移動艦艇目標が衛星画像から確認された。2023年には9月17日~22日の間に、目標へ射撃し、命中した模様である。また2024年は10月までに着弾した標的を撤収し、新たに設置するなど成否は不明であるが、年に1回以上は実射試験・訓練を実施している可能性がある。

上記艦艇目標の他、E-2に模擬した海軍航空機の目標も確認された。空母への対艦ミサイル攻撃と同時に艦載機に対応した攻撃訓練を実施した可能性がある。

・対空軍目標(玉門、若羌東)
2025年までに砂漠の中に滑走路(全長2762m)の全景が確認された玉門射爆場には、滑走路上あるいは近傍にバンカー、SAM陣地、半円形の構築物、E-3(AWACS)類似機、P-8(哨戒機)類似機などがある。
まず、2010年から滑走路を目標としたミサイル攻撃訓練を繰り返し実施し、2022年以降は大規模な着弾は未確認のため、滑走路破壊の検証は終了したものと思われる。

次にバンカー目標に対しては、2016年から2022年までにピンポイント攻撃の試験・訓練を繰り返し、ミサイル性能等を検証した模様である。
続いてSAM陣地目標に対してもミサイル射撃が確認され、その後、顕著な変化がないことから検証は終了した可能性がある。加えて、上記の半円形の構築物というのは、2025年3月に設置された米軍三沢基地や嘉手納基地の戦闘機用バンカーに類似した形状であり、4月には扉の破壊、撤去が確認された。着弾痕がなく、出入り口を正面から圧迫したように破壊されたことから、UAV等をバンカーに突撃させる試験を実施した可能性がある。

E-3類似機に対しては、顕著な着弾痕が確認されないことから爆発を伴わないUAV等の突入や照準試験などを実施、あるいはP-8類似機に対しては、機体の破片が散乱し、コンクリートも変色していることから実爆を伴う攻撃、ただし破損の程度が小さいことからミサイルではなくUAV攻撃、或いは新装備による試験の可能性がある。

さて、若羌東射爆場では2020年までに滑走路が2000mに拡大したことが確認され、継続して着弾痕も確認されており、ミサイル部隊が飛行場への実弾射撃訓練を繰り返していると思われる。また航空機目標も複数機が駐機しており、その中にはF-22類似機、F-35類似機やF-16類似機もあり、継続して実射訓練を繰り返し、2025年以降はミサイルに加え、無人機による突入や照準の試験・訓練を実施した可能性がある。

・目標の変遷と今後の方向
上記をまとめると、射爆場の状況から対海軍目標・対空軍目標の変遷が伺える。対海軍目標は、当初、港内の台湾海軍艦艇から米軍の固定艦艇目標・移動艦艇目標に、更に随伴艦と艦載機も含めた空母打撃群へ移行した模様である。このことから、航行中の艦艇などに正確に着弾可能なミサイルの性能が向上したと評価できる。

対空軍目標は、当初、滑走路を目標としていたところ、バンカーや軍用機に移行し、軍用機は米軍の新機種導入に対応した模擬目標を新設しているなど、より実際の状況に近い環境を作為して、射撃練度の向上を図っている。

これまでの中国ロケット軍の訓練状況を総括すると、台湾海空軍基地への打撃能力は確立したものとみられる。現在は米軍機や空母打撃群への実射試験・訓練を継続し、能力向上を図っており、加えてウクライナが実施した「蜘蛛の巣作戦」等を参考に、空港への無人機の侵入による破壊等を研究している可能性がある。


●『米中首脳会談が与える日本への示唆』吉田正紀・元防衛大臣政策参与・米国双日副社長

・米中首脳会談の主要論点
5月14日~15日、北京で開催された米中首脳会談には4つの主要な論点がある。一つ目は米中関係の方向性で、現在は安定した膠着と評価できる。二つ目は台湾政策で、米国の対応に変化が見られ取引材料にされる可能性が排除できない。三つ目は、イラン戦争の停戦とホルムズ海峡の開放で、これに関する進展はない。四つ目は経済・技術協力で、限定的に合意したと評価できる。

一部日本のメディアは「米中G2時代の到来か」という論調が見られるが、米国はそこまで深刻に受け止めておらず、現時点では米中関係は相対的安定と見ている模様である。

・期待される日本の自律性向上
ただし、首脳会談で日本に関する議論の際、習近平氏は声を荒げて激昂したとの報道(FT5.24)から、中国が日本に仕掛けている国際世論戦(ナラティブ戦)として米中首脳会談を利用した可能性は否定できないことには注意を要する。加えて、人民日報が日本批判をする際に用いる「新型軍国主義」の概念が世界に拡散する可能性もあり、日本が反論しなければ国際世論戦に敗北することになる。

トランプ政権の特徴はLow Hanging Fruits(木の下になる取りやすい果実)に飛びつく傾向があり、「米国は常に日本の側にある」という前提が無条件には成立しない時代に入ったと認識すべきであり、今後わが国は中国研究と同時に米国研究を深化し、自律性を一段と高めることが期待される。


●『長引くイラン戦争とその教訓』岩田清文・元陸上幕僚長

イラン戦争の経緯を見ると、当初米国の圧倒的軍事力を背景にした攻撃に対しイランは為すすべがなかったが、ホルムズ海峡を事実上封鎖して武器化することで、政治的敗北を回避した。これに対し、米国がオマーン湾出口においてイラン関係船舶の通航(イランの石油輸出)を阻止して逆利用したため、ホルムズ海峡がイランにとっての弱点となった。現状は「イラン核保有」と「ホルムズ海峡管理」を争点とした駆け引きが続いており、当初は4~5週間程度とトランプ大統領が想定した戦争期間は長期化している。

・難航する停戦交渉
パキスタンの仲裁による停戦交渉(5月7日の段階)は難航している。米側の主張は、①核備蓄(約2tの濃縮ウラン)を米国に引き渡し、3つの核施設を閉鎖し、濃縮を20年間停止すること。対するイラン側は、①濃縮ウランの一部を希釈し残りを第3国かロシアに移管、濃縮を10年~15年間停止する、②イランの船舶や港に対する米国の封鎖解除、商業航行の再開、戦闘の終結、などと報道された(NYT2026.5.17)。

その後の停戦交渉においては、まずホルムズ海峡を段階的に開放して世界経済を戻した後、60日間をもって、米側にとり最重要事項であるイラン核保有阻止を調整するとの方向性が報道されている。米国は、オバマ政権時の教訓から、既に濃縮したウランの処分、今後の濃縮停止、核施設3か所の機能停止を強く求めているものの、イランは濃縮に関する国家権利譲歩に強く抵抗していることが交渉難航の要因とされている。

・交渉の行方と弾薬備蓄への懸念
米国には楽観論と悲観論の両者が存在する。この見積もりの根拠としては、イラン原油の貯蔵施設が米軍の逆封鎖により急速に満杯になりつつあり、近いうちに生産設備を閉鎖せざるを得なくなるとの理由である。

楽観論としては、ベッセント財務長官のように、近日中に限定的な合意が成立するというものであったが(5月3日)、既にその期日は過ぎている。対する悲観論は、CIAの分析として、イランは米国の海上封鎖を少なくとも3~4か月乗り越えるので、戦争はさらに長期化するとの見方もある。

事実、イランは使用されていなかった空のタンカーや地上タンクを活用して石油貯蔵の限界値を高めている。

2点目の視点として、イランと、中国やロシアとの連携である。中国が偵察衛星をイランに提供したことにより、イランの在サウジアラビア米軍基地に駐機していた空中給油機5機を弾道ミサイルにより破壊した。さらに中国は、エンジン、半導体、光ファイバーやジャイロスコープに至るまで多岐の物品と積載した数百のコンテナをイランおよびロシアに輸送している。さらにロシアはカスピ海ルートを使い、約60%のドローン戦力を失ったイランにドローン部品を供給して攻撃能力の再構築を支援している。

3点目の視点として、この戦争で米国は大量の弾薬・ミサイルを使用しており、その在庫が減少したため、台湾海峡の安全保障にも影響を与えかねない状況にある。この影響により、米国からトマホークを今後400発納入する予定のわが国だが、納入時期が2年ほど遅延するとの報道もあり、懸念が広がっている。

結言として、イラン戦争のみならず、ウクライナ戦争、そして大東亜戦争も含め、戦争の帰趨を左右するのはエネルギー資源(主に石油)であり、その輸送ルート上の海峡、およびライフラインの防衛を含めた継戦能力がなければ生き延びることは難しい。台湾有事を見据えた場合、これらの教訓を踏まえ、同盟国・同志国との連携を強化していくことが必要である。加えて今回の米国の最大の攻撃目的が、イランの核保有阻止であることは我が国にとっても極めて重要なことである。言うまでもないがイランの核拡散阻止に向けた努力を惜しんではならないのである。


 
 
報告会では、参加した議員あるいは記者からの質問に答える形で補足説明が行われ、活気ある議論が展開された。質疑応答の一部を以下に紹介する。
【質疑応答】
Q: 米国のミサイル在庫量には不安を感じるが、イランの残存ミサイルは正確に把握できているか。同様に中国の保有するミサイルの見積もりはどうか。
A: イランの場合、地下施設に貯蔵しており、情報を得る手段が限られるため、正確な在庫数は不明である。中国のミサイル数は発射機の数などから推定するしかないので実数は不明である。

Q: 仮に台湾海峡で戦闘が開始された場合、ミサイルの提供に関してロシアは中国を支援するか。
A: ICBMのロシアとの共同訓練の実績から情報提供はすでに実施している。ロシアに余力があれば、ミサイルの提供は可能と考えるが、実行するかは不明である。いずれにしても、中露朝の連携には注意を要する。

Q: 対中戦略の文脈で米国が経済面で日本に譲歩を迫ることはあるか。
A: 日本のもつ利点は地理的立地である。豪州やフィリピンを含めた第一列島線の防衛力を日本が主導して強化することで、仮に譲歩を迫られてもそれなりに押し返せるものと思料する。

Q: 9月に予定される習近平氏訪米は米国でどのように受け止められているか。
A: 前回の訪米の直後に中国は南シナ海を支配したように、今回も疑いの目をもって見ている。米議会の多数の対中強硬派の動きは注目できる。イラン戦争の帰趨も影響するかもしれない。

Q: 中国ロケット軍はUAVによる攻撃訓練を実施しているとの報告だが、彼らに投射能力(運搬手段)はあるか。
A: 能力的には十分あり、すでに台湾周辺で実動演習も実施している。

この総合安全保障プロジェクトの月次報告会・記者向け報告会は、今後とも継続実施していく予定である。 (文責 国基研)