公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2015.10.05 (月) 印刷する

富坂氏のコメントと「核心的利益」 冨山泰(国基研研究員)

 米中首脳会談に関する拙稿へのコメントを富坂聰氏にいただき、うれしく思う。実は、私が今回の習近平国家主席の訪米でいちばん注目したのは、習主席が米国に求める「新型大国関係」の中心的要素である「核心的利益」の相互尊重に公の場で言及しなかったことだ。
 2013年6月の米カリフォルニア州サニーランズでのオバマ大統領との初の首脳会談(もちろん非公開)で、習主席が核心的利益の相互尊重を主張したことは、楊潔篪国務委員の中国メディアへのブリーフィングで明らかになっている。2014年11月の北京での首脳会談では、習主席は公開の記者会見で核心的利益に言及した。
 今回、習主席は公開の演説や記者会見で核心的利益の相互尊重に触れなかったが、非公開の首脳会談の中でサニーランズ会談と同様に言及したのかしなかったのか、中国メディアの報道内容に詳しい富坂氏に教えを請いたいものだ。中国が領土問題を含む核心的利益の相互尊重を取り下げれば、新型大国関係の構築を受け入れてもよいとの考えが米国の一部にあるので、米中結託を警戒しなければならない日本にとって、ここが重要なポイントとなる可能性がある。
 既存の大国と新興大国は、どちらか一方が覇権(勢力圏と言い換えてもよい)の確立をあきらめない限り、対立が避けられないことは歴史が教えている。米中の利害調整は長続きしない。オバマ政権は海外での軍事力行使に極めて消極的だが、米国が超大国の地位を放棄するのでない限り、米国に別の政権が誕生すれば、中国が造成した南シナ海の人工島から12カイリ以内に米海軍の艦艇か航空機を派遣するなど、国際ルールを無視する中国の領土拡大を許さない決意を示すのではないか。このまま南シナ海が中国の「内海」になることを許せば、米国はアジアの安全保障の担い手ではなくなり、超大国の地位を降りる以外にないからである。
 米ロ対立は中国の背中を押したかもしれないが、米国の背中は押していない。ウクライナやシリアにおけるロシアの傍若無人の行動を抑えるため、中国の同様な行動に目をつぶる選択肢は米国にない。
 中国が主導するアジア・インフラ投資銀行(AIIB)に関して、ホワイトハウスのファクトシートは「新しい機関が国際金融の枠組みの重要な貢献者になるためには、既存の国際金融機関と同様に、適切な構造を持ち、専門家意識、透明性、効率性、有効性の原則に沿って運営されなければならないことを双方は認める」と書いており、富坂氏が引用した中国共産党の機関紙「人民日報」の表現とはニュアンスがだいぶ違う。