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2017.02.14 (火) 印刷する

いつ、どこからでも-脅威増す北のミサイル 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 北朝鮮は日本時間の12日朝、弾道ミサイルを西岸から日本海に向けて発射した。これは米国で日米首脳会談が行われた直後というタイミングであり、政治的には日米同盟に対する挑発の意味合いがあったと思われるが、ここでは軍事的な意味について考察してみたい。
 当初は「ムスダンと見られる」との報道であったが、西岸から日本海に向けて発射されたことから、その可能性は低いと思った。理由はムスダンに使用されている液体燃料の非対称ジメチルヒドラジンは有毒性があるので、失敗した場合には北朝鮮領内に落下して自国民にも被害をもたらすからである。その証拠に、これまでムスダンの発射試験は全て東岸から行われている。
 昨年10月24日付の「ろんだん」で筆者は、「6月22日に、上空に打ち上げるロフテッド軌道で成功した後、度重なる失敗は固体燃料での発射試験を繰り返しているからではないか」と指摘したが、北朝鮮国営メディアは今回、「固体燃料の潜水艦発射弾道ミサイルで成功した」とのことである。ただ北朝鮮が公表した発射の画像を見る限り、昨年6月に成功した潜水艦発射の弾道ミサイルとは弾頭部の形状が異なっており、ミサイル端に多くの翼が見られて完全に同じものではない。

 ●固体燃料で即応性を強化
 またミサイルを発射したのは車両型のランチャーではなく、おそらくロシア製と見られる頑丈かつ全天候型で、戦車のようなキャタピラ移動式であることから、舗装された道路でなくとも移動できるランチャーであった。発射は最初高圧ガス等によってミサイルを押し上げ、その後エンジンが点火されて上昇して行くコールド・ランチと呼ばれる技術がマスターされている。
 現在日本のほぼ全域を射程に収めている中国のDF(東風)-21は、夏級潜水艦から発射されるJL(巨浪)-1を地上発射型に改良した弾道ミサイルであるが、今回の発射は、その北朝鮮版と考えてよいであろう。
 今回の発射で明らかになったことは軍事的には2つある。1つは、これまで北朝鮮の地上発射弾道ミサイルは短射程のトクサを除いて全て液体燃料であったのが、今回の発射で即応性に優れる固体燃料の地上発射中距離弾道ミサイルが出来上がったこと。もう一つは舗装道路がないような場所からでも打ち上げ可能な輸送起立発射機(TEL)から発射できるようになったことである。要するに「いつでも、どこからでも」発射できるようになったのである。
 昨年9月7日付の「ろんだん」で指摘した飽和攻撃とあいまって、弾道ミサイル防衛は「防衛」だけでは益々困難になってきていると言わざるを得ない。