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2020.07.10 (金) 印刷する

コロナ禍の今、日本は積極的な中東支援を 野村明史(拓殖大学海外事情研究所助教)

 中東で新型コロナ感染者が急増している。新型コロナはイランが主要感染ルートとなって瞬く間に中東へ広がった。サウジアラビアでは3月2日に初の感染者が報告され、全国で厳しい移動制限や罰金を科して感染収束に努めてきた。

だが、新型コロナ対策による経済活動の制限と原油減産は、原油収入に依存するサウジの財政を苦境に追い込んだ。ロイターの試算によるとサウジの外貨準備高は、3月には前月から約270億ドル減少して約4645億ドルとなった。過去20年で最大の減少幅だ。

5月31日から見切り発車で段階的に経済活動を再開させたが、感染者は再開時の8万5261人から7月8日時点で22万144人へと倍以上に急増している。その他、アラブ首長国連邦(UAE)でも外出禁止令の解除後に感染者が急増。イランやトルコでも7月8日時点で20万人を超える感染者が報告されている。

中東へ急接近図る中国

本来であれば、同盟国である欧米が、いち早く中東支援に乗り出すべきであるが、自国の混乱や感染阻止に手いっぱいでそれどころではない。中東側としても、とりわけイスラエル寄りの姿勢を強めるトランプ米政権には頭を悩ませている。

そこで苦境にあえぐ中東は新型コロナ発祥国の中国に助けを求めた。4月26日、サウジと中国は新型コロナ対策に関する2億6500万ドルの契約を締結。中国はサウジに900万の検査キットと500人の専門技術者、6つの検査実験室の提供を決めた。中国の中東への接近には対米けん制の狙いもある。

7月6日には、「中国・アラブ諸国協力フォーラム」の閣僚級会議がオンライン上で開かれ、サウジのファイサル外相は会議後、同国でのアラブ・中国サミットを主催する計画を明らかにした。

近年、サウジを中心に中東も中国へ急接近している。欧米が新型コロナで疲弊している中、経済を再活性させるために中国市場は大きな魅力だ。中国はサウジの最大貿易相手国でもある。

また、先月末に出された香港国家安全法では、サウジ、イラン、クウェート、UAEなどの多くの中東諸国が中国を支持した。昨年7月には、国連人権理事会で中国の新疆ウイグルにおける人権侵害を非難する共同書簡が提出されたが、サウジやエジプトなどは中国を擁護する立場をとった。

こうした背景には、両国の国家体制に共通点が多いことも考えられるが、中国の一帯一路構想が功を奏している。中国が他国と経済関係を強化することで自国への批判を回避させようとする狙いだ。多くの中東諸国も本来あるべきイスラムによる連携より、経済的関係を優先するというはっきりとしたメッセージを出している。

「中立」では存在感示せず

近年、日本は、中東における中立性と米国との関係性を武器に、米国とイランの仲介役を務めるなど重要な役割を果たす機会が増えているが、コロナ禍に喘ぐ中東で日本の存在感が今ひとつはっきりしない。このまま中国に先を越されたままでよいのだろうか。

安倍晋三首相はイランやサウジなど中東諸国を歴訪して信頼関係の強化に努めている。両国との関係は、首脳同士の個人的関係による依存が大きいように思える。

苦境に立つ中東がはっきりとしたメッセージを出している今、日本は中東への新型コロナ対策支援や経済支援を積極的に行い、中東平和の要諦となるべく永続的な信頼の構築になお一層の努力をすべきである。同朋意識の強い中東では、逆境時における援助の効果は大きい。今こそ日本は存在感を示すべき時だろう。中東では中立をアピールするだけでは誰も耳を傾けてくれない。