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2020.09.03 (木) 印刷する

石破氏の「拉致」公約に見る危険性 西岡力(国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授)

 9月1日、石破茂・元自民党幹事長が党総裁選挙出馬にあたり、会見を開いて拉致問題について次のように語った。

東京、平壌で連絡事務所を開設する。それは政府として公式に、責任をもった立場で拉致問題をどのように解決するかということに対応していかねばならないからだ

これは大変危険な公約だ。強く反対したい。

「被害者死亡」確認と同じ

石破氏は2018年9月の前回の総裁選挙でも同じことを公約とした。同年6月の第1回米朝首脳会談の直後に、長く冬眠していた「日朝国交正常化推進議員連盟」が総会を開いたが、その際、朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」の平壌支局長金志永氏と田中均・元外務省審議官が講演した。

金氏は「拉致問題は解決済み」として横田めぐみさんらの死亡を前提にした国交正常化を強調し、田中氏は拉致問題解決のため、平壌に連絡事務所を置いて日朝合同調査を行うことを提案した。

同総会で田中講演を聴いていた石破氏はその後、田中案を自分の公約として主張し始めた。その時私は、この公約は危険だと国基研の「直言」や月刊誌正論などで繰り返し主張した。石破氏は今回もまた同じ公約を掲げたので、なぜそれが危険なのかを再度論じておく。

一言で言うと、平壌に連絡事務所を作って日朝が合同調査をするのは、「被害者死亡」の確認作業をするのに等しいからだ。

解決にはほど遠い内容

北朝鮮で行う調査とは何か。生存者を捜すことが含まれるわけがない。北朝鮮が隠そうと決めている被害者を合同調査で発見できないからだ。従って、北朝鮮側に「死亡の経緯」の説明を聞いたり、「死亡現場」と称する場所へ連れて行かれたりするだけだ。

もしかしたら、秘密を知ることの少ない数人の被害者を「合同調査で見つかった」として出してくるかも知れない。ただ、それは全被害者の一括帰国という安倍晋三政権と私たちが北朝鮮に求めてきた解決にはほど遠いものだ。

つまり、「石破公約」が想定する拉致問題の解決とは、横田めぐみさんたち8人の死亡など、北朝鮮が2002年に通報してきた調査結果なるものを日本側が受け入れることに他ならない。

日本の世論を納得させるために北朝鮮は、日本から警察などが北に出向いて合同調査を長期間行い、それが続く間に平行して日朝の国交正常化交渉を行おうとしているのだ。

安倍政権は、被害者の「死亡」を裏付けるものが一切存在しないため、被害者が生存しているという前提に立ってきた。多数の生存情報もある。だからこそ、全被害者生存という前提を崩す平壌事務所設置という石破公約は大変危険だと再度強調しておく。