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西岡力

【第534回・特別版】日朝「拉致」合同調査に反対せよ

西岡力 / 2018.08.06 (月)


国基研企画委員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 米朝首脳会談で拉致問題が取り上げられた後も、北朝鮮公式メディアは「拉致問題は解決済み」という主張を続けている。しかし、注意深くその論旨を読み解くと、この機会に日本と協議して、多額の過去清算資金を得たいという本音が透けてくる。
 すでに北朝鮮はそのための準備を始めている。彼らは拉致についてゼロ回答では日本から金を取れないことを理解している。しかし、諜報部門などは秘密を多数知っている横田めぐみさんたちを生きて返したくないから、対日工作を本格化してきた。

 ●動きだした新北勢力
 この間、日本で動きを潜めていた親北勢力が表に出てきた。6月21日、2011年から活動を停止していた「日朝国交正常化推進議員連盟」が議員会館で総会を開き、約40人の与野党議員が集まった。9月の自民党総裁選挙に出馬する構えの石破茂衆院議員も出席した。同議連は活発に活動を続け、7月27日には日朝首脳会談の早期実現を求める決議を採択し、首相官邸に届けた。
 議連会長の衛藤征士郎元衆院副議長は過去に「国交正常化後に拉致問題を解決すべきだ」と公言していた代表的な親北派だ。幹事長代理はかつて「横田めぐみさんたちは死んでいる」とする北朝鮮情報を吹聴して回り、家族会・救う会から抗議を受けて拉致議連事務局長を辞任した平沢勝栄衆院議員だ。
 6月21日の総会では、朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」の平壌支局長金志永氏と田中均・元外務審議官が講演した。金氏は「拉致問題は解決済み」と強調した。それを国会議員が拝聴するとは、一体どこの国の議員なのかという強い疑問が湧いてくる。
 田中氏は、拉致問題解決のため平壌に連絡事務所を置いて日朝合同調査を行うことを提案した。田中氏はその後も、月刊誌などで同じ主張を続け、石破議員も7月5日、BSテレビでほぼ同じ内容を口にした。これは大変危険だ。平壌に連絡事務所を作って日朝が合同調査をするのは、「被害者死亡」の確認作業をするのに等しいからだ。
 北朝鮮で行う調査とは何か。生存者を捜すことが含まれるのか。北朝鮮が隠そうと決めている被害者を合同調査で発見できるはずがない。従って、北朝鮮側に「死亡の経緯」の説明を聞いたり、「死亡現場」と称する場所へ連れて行かれたりするだけだ。

 ●調査提案の欺瞞
 つまり、田中氏ら合同調査や連絡事務所設置を提案する人々が考えている拉致問題の解決とは、横田めぐみさんたち8人の死亡など北朝鮮が2002年に通報してきた調査結果なるものを日本側が受け入れることに他ならないのだ。日本の世論を納得させるために、日本から警察などが北朝鮮に出向き、北朝鮮側と合同調査を長期間行い、それが続く間に国交正常化を実現させようとしている。
 安倍政権は、被害者の「死亡」を裏付けるものが一切存在しないため、被害者が生存しているという前提に立っている。多数の生存情報もある。だからこそ、全被害者生存という前提を崩す合同調査や平壌事務所設置などの提案に強く反対しなければならない。(了)