中国北東部にある避暑地、河北省秦皇島市の北戴河で8月初めから、習近平国家主席ら共産党最高指導部と党内実力者の江沢民、胡錦濤両氏ら長老による重要会議が開かれている。15日前後まで続くとみられる。
関係者によれば、会議で長老から習指導部の外交、経済政策を批判する意見が多数出た。中には、習氏の強引な対外拡張路線や、習政権が掲げる民族主義をあおる政治スローガン「中華民族の偉大なる復興」などが外国の反発を招き、米中貿易戦争を引き起こしたと主張する意見もあり、習指導部に鄧小平時代の低姿勢外交路線へ戻るよう求める声が相次いだという。
また、中国の官製メディアが近年、習氏個人の業績を過度に宣伝していることも非難の対象となり、集団指導体制の否定や、個人崇拝につながる可能性があるとして批判されている。
●序列5位王氏「謹慎」か
批判は主に、対米通商交渉を担当している習氏側近の劉鶴・副首相や、最高指導部の序列5位で、思想、イデオロギーを担当する王滬寧・政治局常務委員などを対象としているが、最高指導者の習氏への不満表明でもあることが明らかだ。
北戴河会議で、習指導部は釈明に追われているという。劉氏と王氏が自己批判をさせられたほか、王氏は実質的な謹慎状態に入ったとの情報もある。現に、共産党機関紙、人民日報などは6月下旬以降、王氏の動向をほとんど伝えていない。王氏が担当する仕事は陳希・中央組織部長らが代行している。
秋には共産党中央委員会総会があり、王氏を最高指導部から外して胡春華副首相を入れる案がすでにささやかれているという。胡副首相は習氏のライバルである李克強首相の側近で、この人事案が実現すれば、党中枢のバランスは大きく変化し、習氏の党内における求心力が一気に低下する可能性もある。習派はいまのところ必死に抵抗しているといい、抗争は秋まで続くとみられる。
●「一帯一路」見直しの可能性も
長老たちが習氏へ不満を持つ最大の理由は、トランプ米大統領が仕掛ける米中貿易戦争に有効な対策を全くとれていないことである。貿易摩擦が本格化した3月以降、上海の株指数は3300ポイントから2800ポイント前後へと約20%下落し、人民元も10%弱下落した。
さらに、中国が対抗措置として米国産大豆に追加関税を課したところ、大豆の搾りかすを飼料としている養豚業が大きな打撃を受け、北京などの都市部で豚肉の価格が約30%も上昇し、市民の生活に大きな影響を与えた。
以前から習氏の強引な政治手法に不満を持っていた長老たちは、米中貿易戦争を習氏への反撃のチャンスととらえたようだ。北戴河会議後、習政権の外交、経済政策が多く見直される可能性もあり、米国を刺激しないために、外国の技術を強引に手に入れる「中国製造2025」戦略や、対外拡張の一環である現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」などが実質的に大幅修正されるかもしれない。
日本の国益とも大きく関係しているため、中国の政局、政策の変化を注意深く見守る必要がある。(了)