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2021.11.17 (水) 印刷する

ロシアが唐突な反日「歴史戦」 名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)

歴史認識問題での日本批判は中国と韓国が定番だが、今年はロシアがそれに加わってきた。ロシアはこの夏以降、第二次世界大戦中の日本の侵略行為を批判したり「戦争犯罪」の文書を公開したりしており、中韓以上の「反日」が目立つ。

スパイ・ゾルゲの再評価も

ロシア外務省のザハロワ報道官は終戦記念日の8月15日、外務省声明を出し、「中国や韓国、東南アジアで日本の軍国主義者によって何百万もの人々が亡くなった」と批判した。

報道官は、事実上の対日戦勝記念日(ロシアでは9月3日)にも声明を出し、「日本はいまだに、第二次大戦の結果について国際的に受け入れられている評価を共有していない」と非難した。

9月には、細菌研究を行った関東軍「731部隊」の関係者を戦犯として裁いたハバロフスク裁判(1949年)を回顧する大規模な学術会議が開かれ、プーチン大統領は「第二次大戦に関する歪曲を防ぎ、歴史を保存すべきだ」とのメッセージを寄せた。

この前後に、シベリア抑留中の関東軍元幹部らの尋問記録が次々に公表された。戦前、東京で活動した旧ソ連のスパイ、リヒャルト・ゾルゲを再評価する動きも目立つ。

旧ソ連が日ソ中立条約を破って対日参戦して、北方領土を占拠し、関東軍将兵をシベリアに抑留したのは「火事場泥棒」だが、プーチン政権はそれを無視し、なりふり構わず対日歴史戦を展開している。

無視も外交戦術として得策か

ロシアの唐突な反日歴史攻勢の背景には、安倍晋三元首相の平和条約交渉が失敗した反動もあろう。ロシアの日本専門家は「プーチン政権はこの際、日本の北方領土返還要求を完全に封じ込めるため、情報・プロパガンダ戦に乗り出した」と分析していた。

政権が高揚させた愛国主義や戦勝神話はピークに達しており、昨年、「祖国防衛の偉業を過小評価することを禁止」する憲法改正も行われた。

30年前のソ連崩壊直後、改革派のエリツィン大統領は、大戦末期のソ連の拡張主義など「スターリン外交の過ち」を非難し、シベリア抑留問題で日本側に公式に謝罪した。プーチン体制下で歴史認識は逆転したが、現在の「反日」は政治的要因が大きく、政権が交代すれば、また歴史認識も変わるだろう。

日本政府・外務省はこうした身勝手な主張に抗議や反論をしていない。反論すれば、中韓両国が悪乗りする恐れもあり、無視することも外交戦術としては得策かもしれない。