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2024.03.18 (月) 印刷する

リンクしている欧州、中東、アジアの紛争 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

ウクライナ・ロシア戦争は膠着し、中東ではイスラエルによるイスラム原理主義組織ハマスへの攻撃が止まらず、中国は台湾が実効支配する金門島海域に海警船を常駐させ、フィリピン船には嫌がらせを行っている。日本の報道では、こうした世界各地の紛争が個別に伝えられているが、3者はリンクしていると捉えることが妥当であろう。

過去にも連動の事例

2014年にロシアがウクライナのクリミア半島を併合した際、中東のパレスチナ自治区ガザでは今と同様、イスラエルとハマスが戦端を開いている。古くは、1956年にソ連が軍事鎮圧したハンガリー動乱の時に、英仏・イスラエル軍がエジプトに侵攻したスエズ動乱が起きている。

ロシアのプーチン大統領の狙いは二つあると思われる。一つは欧米の戦力を分散すること、二つ目はウクライナ侵略で国際的に正当性を失っているロシアが、米国に支援されるイスラエルも国際法違反の蛮行を行っていると主張して、国際世論の非難の矛先を自分以外に向かわせることだ。ロシアが中東のイスラム組織と密接な関係を持ち、とりわけイランと友好関係にあることは周知の事実であることから、ロシアがイスラエル・ハマス紛争の背後で糸を引いていることは十分推測できる。ハマスがイスラエルへの奇襲攻撃を行った昨年10月頃からウクライナの反転攻勢が頓挫しているので、プーチンの意図は功を奏している。

プーチン大統領としては、さらに米国の戦力を分散させるためには、東アジアにおいても米国に関わらざるを得ないようにしておくことだ。しかし中国は、米国の本格的な介入で中国の現状変更意図が覆されれば習近平国家主席のメンツに関わることになるので、サラミをスライスするように、米国に軍事介入をさせないグレーゾーンでの勢力拡張を試みているのが現在の台湾やフィリピンとの小競り合い、そしてベトナムとの領海基線の一方的変更宣言と捉えるべきであろう。

台湾有事は早まるかもしれない

3月8日、国基研は台湾識者とのリモート対話を行ったが、その中で台湾側参加者が「金門島をめぐる昨今の中台対立は、(禁漁区での中国漁船の操業という)単なる犯罪を中国が政治問題化させていることによる」と述べていたのが印象的であった。

米海軍協会の月刊誌プロシーディングズは、2026年に中台戦争が起きる場合を想定して、昨年末から各種戦の特集を組んでいる。ウクライナや中東の戦争が米国の戦力を削いでいる状況を見て、習主席が今こそチャンスと判断する可能性もある。そして、もし今秋の米大統領選挙でトランプ氏が選出されれば、台湾海峡の危機が起きても「自分で処理しろ」と日本や台湾を突き放しかねない。

この全地球的規模の大動乱の時代に、日本の国会は政治資金問題の追及に明け暮れている。防衛力の抜本的な向上が本来の目的である防衛費増額が為替変動で目減りしても、政府は「43兆円」の枠組みから一歩も踏み出そうとしない。また、外国と共同開発する防衛装備品の第三国への輸出を次期戦闘機に限って認めることで連立与党が合意した。この体たらくで一体良いのだろうか。(了)